惨殺体で見つかった。
フリークス
五人の子供に人体改造を施した科学者が殺される。恐怖と謎解きが同居する連作。
狂気の科学者J・Mは、五人の子供に人体改造を施し、「怪物」と呼んで責め苛んでいた。ある日、そのJ・Mが惨殺体となって発見される。
『フリークス』の表題作は、そんな設定から始まります。綾辻行人の中編三作を収めた作品集です。
本格ミステリと恐怖、そして異形の者たちへの真摯な愛——その三つから生まれた物語が並びます。館を舞台にした長編を書き継いできた作家が、ここでは恐怖と謎解きを同じ器に入れ、異形の者たちの物語として三つの中編に仕立てています。
物語の入り口
表題作の設定は、最初からはっきりと示されています。狂気の科学者J・M。
彼は五人の子供に人体改造を施し、「怪物」と呼んで責め苛んでいました。科学者としての才能と、それを子供たちに向けた狂気。
その男が、ある日、惨殺体となって発見されます。責め苛む側だった人間が、責め苛まれる側よりも無惨な姿で見つかる。
この反転が、表題作の最初の一撃です。
子供たちを責め苛んでいた男が、惨殺体となって見つかる。表題作の謎は、その死から動き出します。
怪物と呼ばれた子供たちと、その子供たちを責め苛んできた男——物語の中心にあるのは、そのいびつな関係です。
人体改造を施された子供たちは、「怪物」と呼ばれる存在です。その異形の者たちを、綾辻行人は恐怖の対象としてだけではなく、真摯な愛情を込めて描く。
恐怖と謎と、異形への愛。三つが同じ物語のなかにあるところが、この作品集のいちばんの特徴です。
怪物と呼ばれた者たちの側に立って物語を読む。その姿勢が、表題作の読み心地を決めています。
読者は、J・Mの惨殺体の前に立たされます。責め苛まれた五人の子供たち。
科学者の狂気。人体改造という、目を背けたくなる題材。
そのすべてを見据えたうえで、誰がやったのかを考える。恐怖小説の手触りのなかで、本格ミステリの問いを追う。
他の作家ではなかなか味わえない読書が、ここにはあります。
読みどころ
恐怖と本格が、同じ器のなかで、どちらも手を抜かれないまま同居しています。 人体改造、怪物、狂気の科学者。
道具立ては恐怖小説そのものです。それなのに、投げかけられる問いは、誰が殺したのか、という本格ミステリの中心そのもの。
どちらか一方に寄りかからず、両方を最後まで手放さない。綾辻行人の二つの顔が、一冊のなかで正面から向き合っています。
館を舞台にした長編で謎解きの腕を示してきた書き手が、ここでは狂気の科学者と、怪物と呼ばれた子供たちという、恐怖小説そのものの道具立てのなかでその腕を振るっているのです。
もうひとつは、異形の者たちへのまなざしです。怪物と呼ばれる者たちを、ただ怖がらせる道具として使うのではなく、真摯に、愛情をもって描く。
恐怖小説の題材を扱いながら、その筆致には温度があります。読み終えたあと、怖さだけでなく、別の何かが残ります。
怖がらせるだけなら、もっと簡単な書き方があったはずです。綾辻行人はそれを選びませんでした。
こんな人におすすめ
恐怖と謎解きの両方を味わいたい読者、異形の者たちの物語に惹かれる読者に向いています。館ものの綾辻行人しか知らない人には、この作家の幅を知る格好の作品です。
恐怖小説の読者が本格に触れる入り口にもなります。逆に、痛みや損壊の描写が苦手な人には薦めません。
人体改造という題材は、字面どおりのものだと思っておいてください。それでも、恐怖の先にあるものを確かめたい人には、読む価値があります。
作品の背景
『フリークス』は、館を舞台にした長編と恐怖を扱う仕事という、綾辻行人の二つの顔が重なった作品です。初刊は1996年4月の光文社カッパ・ノベルスで、2000年3月に光文社文庫、2011年4月に角川文庫と版を移しています。
収録されているのは「夢魔の手――三一三号室の患者――」「四〇九号室の患者」「フリークス――五六四号室の患者――」の三編です。光文社文庫版は、連作推理小説として刊行されました。
人体改造という題材どおり、痛みや損壊に踏み込んだ描写がありますから、その点は先に知っておいてください。
手に取るなら
現行版は角川文庫で、336ページあります。中編三作の連作集ですから、一編ずつ区切って読むこともできます。
三編それぞれに、恐怖と謎の両方が用意されています。綾辻行人の他の作品を読んでいなくても問題ありません。
惨殺された科学者と、怪物と呼ばれた子供たち。誰が、なぜ、あの男を殺したのか。
恐怖に目を奪われながら、その問いを最後まで手放さないでください。
綾辻行人について
綾辻行人は1960年、京都市の生まれです。京都大学教育学部に進んで京大推理小説研究会に所属し、のちに妻となる小野不由美と同期でした。
研究会には我孫子武丸や法月綸太郎も在籍しています。大学院在学中の1987年に『十角館の殺人』でデビューし、この一作がのちに「新本格」と呼ばれる流れの起点になりました。
1992年には『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞(長編部門)を、のちには第22回日本ミステリー文学大賞を受けています。
奇妙な館を舞台にした館シリーズを書き継ぐ一方で、囁きシリーズや『殺人鬼』、『Another』、『深泥丘奇談』の連作など、恐怖と怪奇を主眼に据えた作品にも長く取り組んできました。漫画家の楳図かずおを「わが心の師」と公言しており、謎解きの骨組みを組み上げる仕事と、怖さを描く仕事を並行して続けてきた作家です。
書誌情報
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