現代国内 1993
ダリの繭
『ダリの繭』有栖川有栖

書評

ダリの繭

カプセルの中の遺体からダリ髭が消えていた。難解な言葉に火村と有栖川が挑むシリーズ2作目。

ダリの繭 表紙画像
有栖川有栖 角川書店(角川文庫)1993年
目次

宝石チェーンの社長は、サルバドール・ダリに心酔するあまり、あの跳ね上がった髭を自分のトレードマークにしていました。その男が神戸の別邸で殺され、遺体はフロートカプセルの中で見つかります。

しかも、自慢のダリ髭がなくなっていた。『ダリの繭』は、推理作家の有栖川有栖と臨床犯罪学者の火村英生が事件に向き合う火村英生シリーズの長編で、『46番目の密室』に続く2作目にあたります。

物語の入り口

殺されたのは堂条秀一。現代の繭とでも呼びたくなるフロートカプセルの中に横たわっていた彼のそばには、難解なダイイング・メッセージが隠されていました。

消えた髭と、読み解けない言葉。現場に残された奇妙さはそれだけでは済まず、不可解な点がいくつも重なっていきます。

火村は犯罪社会学の研究者で、研究の一環として実際の殺人現場へ足を運んでは事件を解いてきました。「臨床犯罪学者」というのは、そんな彼に友人の有栖川がつけた呼び名です。

その有栖川も、助手という名目でフィールドワークに同行します。神戸の別邸を舞台に、ダリの名がまとわりつく事件が二人の前に広がります。

読みどころ

死んだ男が最後に残した言葉は、誰に向けて、何を指していたのか。

ダイイング・メッセージは、書き残した当人に意味を確かめることのできない手がかりです。読み違えれば、捜査はまるで見当違いの方へ進んでしまう。

本書ではその危うい手がかりが、繭のようなカプセルの中に隠され、さらに髭の消えた遺体という別の謎と並べて差し出されます。どれが事件の核心を指し、どれが目くらましなのか。

ちぐはぐに見える材料を一つずつ吟味していく手順が、そのまま読書の手ごたえになっています。

題名にも被害者の嗜好にもダリの名が刻まれているだけに、現場はどこか現実離れした絵のような相貌を帯びています。その異様さに目を奪われず、手がかりを冷静に拾い上げていく火村と、作家らしい想像をめぐらせながら隣を歩く有栖川。

現場を歩く学者と物語を書く人間という、立ち位置の違う二人の目が重なるところに、このシリーズならではの味わいがあります。

こんな人におすすめ

ダイイング・メッセージの解読に頭をひねるのが好きな人に、まず手に取ってほしい一冊です。芸術家への偏愛や風変わりな装置といった、謎めいた道具立ての多い事件が好きな人にも向いています。

『46番目の密室』で二人に出会った読者なら、続けてもう一度その掛け合いを味わえます。

作品の背景

1993年12月7日、角川文庫の書き下ろしとして刊行されました。前作の『46番目の密室』は1992年3月に講談社ノベルスから出ていて、シリーズは2作目で早くも版元を移したことになります。

1999年11月には角川書店から愛蔵版が出て、書き下ろしの掌編「シュルレアリスムの午後」が加わりました。2013年には角川ビーンズ文庫から上下2冊でも刊行され、その下冊にも同じ掌編が収められています。

2016年2月7日には、日本テレビのドラマ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』第4話「ダリの繭」として映像化され、火村を斎藤工、有栖川を窪田正孝が演じました。

手に取るなら

角川文庫版で448ページ。2001年5月からは電子版も出ています。

「シュルレアリスムの午後」まで読みたいなら、収録しているのは愛蔵版とビーンズ文庫の下冊です。髭を失った遺体と繭の中の言葉から、火村がどんな糸をたぐり寄せるのか。

じっくり腰を据えて追いかけてください。

有栖川有栖について

有栖川有栖は1959年、大阪市の生まれです。小学生のころから推理作家を志し、同志社大学法学部では推理小説研究会に所属しました。

卒業後は書店に勤めながら書き続け、1989年に『月光ゲーム Yの悲劇'88』でデビューします。1994年に書店を辞め、専業作家になりました。

作品は大きく二つの系列に分かれます。江神二郎が探偵役を務める学生アリスのシリーズと、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が組む作家アリスのシリーズです。

2003年に『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、2008年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞、2018年に火村英生シリーズで第3回吉川英治文庫賞、2022年に第26回日本ミステリー文学大賞を受けました。2000年から2005年までは本格ミステリ作家クラブの初代会長も務めています。

書誌情報

出版社
角川書店 / 角川文庫
刊行年
1993
ISBN-13
9784041913017
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · クローズドサークル

有栖川有栖をもっと読む

全作品一覧へ →

似た読み味を、他の作家で

気分タグ・系譜の重なりから自動抽出。★は管理人が実読して太鼓判を押した本

この本が登場する特集

この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

プロフィールを見る →