学校の伝説がよみがえる。
亡霊は夜歩く
三姉妹の通う学校に伝わる四つの伝説がよみがえる——夢水清志郎シリーズの第2作。
「時計塔の鐘が鳴ると、人が死ぬ」。三姉妹の通う学校に、そんな伝説がよみがえります。
『亡霊は夜歩く』は、はやみねかおるの「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズの第2作。UFO怪事件に始まり、学校に伝わる四つの伝説へと続く怪事件に、ものわすれの名探偵・夢水清志郎が挑みます。
子どもの日常のすぐ隣に、怪奇めいた影が差し込んでくる。第1作で顔を覚えた探偵と三姉妹に、もう一度会いにいくための一冊です。
物語の入り口
「名探偵夢水清志郎事件ノート」は、小学校の教師だったはやみねかおるが、教室の子どもたちと同じ年ごろの読者に向けて書き継いでいったシリーズです。幕開けは、UFO怪事件です。
名探偵を名乗りながら、自分がごはんを食べたかどうかも覚えていない夢水清志郎の周りで、空飛ぶ円盤という、およそ推理の対象になりそうにない騒ぎが持ち上がります。第1作を読んだ人なら、ここでもう笑ってしまうはずです。
ものぐさでマイペースな探偵が、いったいこの話をどう扱うのか。亜衣・真衣・美衣の三姉妹があきれながら見守る、いつもの空気がすぐに立ち上がります。
続いて舞台になるのが、三姉妹の通う学校です。そこには古くから、四つの伝説が語り継がれてきました。
そのひとつが「時計塔の鐘が鳴ると、人が死ぬ」。子どもの頃、誰もが一度は耳にしたような、学校の怪談めいた言い伝えです。
その伝説が、いま、現実によみがえりはじめる。毎日通っている校舎が、放課後の廊下が、急に見知らぬ場所のように感じられる瞬間。
鐘は本当に鳴るのか。鳴ったら、伝説のとおりになるのか。
言い伝えを笑い飛ばしていた側の足元から、少しずつ確かさが抜けていきます。学校という、読者の子どもたちにとって最も身近な場所を舞台に選んだところに、この巻の怖さと面白さがあります。
四つの伝説と、一つの名探偵。この名探偵は、はたして謎を解けるのか。
頼りになるのかならないのか最後まで判然としない夢水と、彼を引っ張り回す三姉妹。読者は三姉妹と同じ、伝説を語り継いできた学校の側に立って、鐘の音を待つことになります。
怪談のざわつきと、掛け合いの可笑しさ。その二つが同じページに同居しているのが、このシリーズの独特の読み心地です。
怖い話を読んでいるはずなのに、気づけば口元がゆるんでいる。鐘の伝説がささやかれる校舎のなかでも、物忘れの名探偵がいつものマイペースを崩さないので、怖さが張りつめきらないのです。
読みどころ
学校の伝説という、子どもがいちばん本気で怖がる題材が、この巻では正面から謎解きの対象に据えられています。 伝説は怖がるためのものではなく、考えるためのもの。
そう教えてくれる探偵がいる学校は、たぶん少しだけ通いやすくなります。四つという数の据え方も巧みで、ひとつが現実になれば、残りはどうなるのかと、読者の側が先回りして身構えてしまう。
その身構えごと物語に引き込んでいく構えは、児童向けと侮れません。UFO怪事件という、いかにも眉唾な幕開けから学校の伝説へ、と怪しい話が二段構えで並ぶ配置も、読者の期待を煽るのにちょうどいい間合いです。
シリーズとしての見どころは、夢水と三姉妹の距離が縮まっていくことです。第1作では三姉妹の身近な変わり者だった探偵の出番が、この巻では三姉妹の学校の伝説にまで広がる。
ルビの多い読みやすい文章のなかで、探偵とその周りの人たちの関係が少しずつ家族のようになっていく過程を、読者も一緒に見届けることになります。
こんな人におすすめ
学校の怪談や言い伝えにわくわくした記憶のある人、シリーズを刊行順に追いかけたい人に向いています。第1作を読んでいれば人物紹介なしで入れますし、この巻から読んでも人物像はすぐにつかめます。
逆に、重厚な文体や本格的な捜査描写を求めているなら、この軽やかな語り口は少し物足りないかもしれません。
作品の背景
本書は1994年、講談社青い鳥文庫から刊行されています。第1作『そして五人がいなくなる』と同じ年の刊行で、シリーズがいちばん勢いよく走り出した時期の一冊。
探偵と三姉妹という顔ぶれが固まり、事件の舞台が三姉妹の学校へと広がっていく、シリーズの土台を作った巻でもあります。
手に取るなら
現行版は講談社青い鳥文庫。Kindle版もあります。
シリーズは第1作『そして五人がいなくなる』に続く2冊目なので、まだの人は第1作から読むと、夢水と三姉妹の掛け合いを最初から楽しめます。子どもの頃に出会いそこねたジュニアミステリを、大人になってから読み返す。
そんな読み方にもよく応えてくれる一冊です。学校が舞台なので、新学期や学園祭の季節に手に取ると、伝説のざわつきが一段と身近に感じられるかもしれません。
はやみねかおるについて
はやみねかおるは1964年、三重県伊勢市の生まれです。三重大学教育学部で数学を学び、1987年から小学校の教壇に立ちました。
クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で書きはじめたのが作家としての出発点です。1989年、『怪盗道化師』が第30回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれ、翌1990年の刊行でデビューしました。
2000年に教職を離れてからは執筆に専念しています。
〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のほか、〈怪盗クイーン〉〈都会のトム&ソーヤ〉〈少年名探偵虹北恭助の冒険〉と、子ども向けの謎解きを三十年以上書き継いできました。別々のシリーズの人物や世界がつながり合う遊び心も持ち味です。
子どもたちが選ぶうつのみやこども賞を4度受け、2023年には第61回野間児童文芸賞特別賞を贈られています。
書誌情報
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