クドリャフカの順番
文化祭の連続盗難事件を、古典部の4人がそれぞれの持ち場から追う、語り手交代制の青春ミステリ。
学校の文化祭には、準備の段階から本番の喧騒まで、ふだんの教室にはない熱があります。〈古典部〉シリーズの3作目は、その熱気のただなかで起きる奇妙な盗難事件を描いた青春ミステリです。
前作『愚者のエンドロール』から約3年ぶりに届いた新作で、シリーズで初めて、古典部の4人全員が交代で語り手を務めています。
物語の入り口
神山高校に、待ちに待った文化祭がやってきます。ところが古典部は、のっけから頭を抱えていました。
手違いで文集を作りすぎてしまい、その数は200部。とても売り切れそうにない在庫の山を前に、部員たちは何とか手を打たなければなりません。
そのころ校内では、妙な盗難が相次いでいました。消えたのは碁石、タロットカード、水鉄砲。
並べてみても共通点の見えない品ばかりで、一連の騒ぎはやがて「十文字」事件と呼ばれるようになります。この事件を古典部が解き明かせば、部の名前が知れ渡り、文集も売れるのではないか。
盛り上がる仲間たちに押し出されるようにして、折木奉太郎はしぶしぶ謎に向き合うことになります。
読みどころ
いちばんの特色は、語りのリレーです。これまでのシリーズは奉太郎ひとりの目を通して進んできましたが、本作では千反田える、里志、摩耶花もそれぞれ語り手として登場します。
文集を売るために校内を駆け回るえる。兼部している漫画研究会でのもめごとに巻き込まれる摩耶花。
同じ文化祭の同じ時間でも、誰の目から見るかで景色はまるで違って見えます。視点が切り替わるたびに、4人が別々の場所で拾い集めた断片が、少しずつひとつの事件の輪郭へ寄っていく。
その運び方が見事です。
文化祭そのものの楽しさも、たっぷり詰まっています。校内では料理対決のような催しまで開かれ、祭りならではのにぎわいが紙面からあふれてきます。
その陰で盗難の連鎖が静かに広がっていくので、お祭りの浮かれた空気と謎解きの緊張が、ほどよく混ざり合っています。題名だけでは中身の想像がつきにくい一冊ですが、「さわやかで、ちょっぴりほろ苦い」という言葉どおりの読後感が待っています。
こんな人におすすめ
学校という小さな世界で起きる謎を、じっくり楽しみたい人にぴったりです。複数の語り手がそれぞれの事情を抱えながら同じ出来事を追う構成が好きな人にも向いています。
奉太郎たちの関係を知っているほど味わいが増すので、『氷菓』『愚者のエンドロール』と順に読んでから進むのがおすすめです。
作品の背景
単行本は2005年6月、角川書店から『クドリャフカの順番 「十文字」事件』の題で刊行されました。四六判のソフトカバーで、320ページの一冊でした。
2008年5月に角川文庫へ入った際に副題が外れ、いまの題名になっています。2012年の秋には電子版も出ました。
テレビアニメ『氷菓』では、第12話から第17話の6話分をかけてこの文化祭のエピソードが描かれており、コミカライズもされています。
手に取るなら
角川文庫版は400ページ。4人の語りが入れ替わりながら進むので、語り手が変わるたびに、いま誰の目線なのかを意識しておくと、細部のつながりが見えやすくなります。
文化祭の季節に合わせて開くのも、楽しい読み方です。
米澤穂信について
米澤穂信は1978年、岐阜県の生まれです。金沢大学文学部の在学中からウェブサイトで小説を発表しており、大学時代に北村薫の『空飛ぶ馬』『六の宮の姫君』を読んで衝撃を受け、ミステリへ進む道を定めたといいます。
卒業後は書店で働きながら書き続け、2001年に『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受けてデビューしました。
高校生の身の回りの謎を扱う〈古典部〉〈小市民〉の両シリーズを書き継ぐ一方、大人の読者に向けた長編や短編集へも領域を広げてきました。2011年に『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞、2014年に『満願』で第27回山本周五郎賞を受け、2021年刊の『黒牢城』では第12回山田風太郎賞に続いて第166回直木三十五賞と第22回本格ミステリ大賞を受けています。
2025年には〈小市民〉シリーズで第10回吉川英治文庫賞を受けました。
書誌情報
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