殺す相手を交換する。
キングを探せ
互いに無関係な4人が、トランプで担当を決めて四重交換殺人を企てる犯人側からの長編。
繁華街のカラオケボックスに、四人の男が集まります。めいめいに殺意を抱えた彼らの、今日は結団式でした。
目的はひとつ。動機から手繰られないよう、ターゲットを取り換えること。
誰が誰を殺るかは、トランプのカードが定めていきます。法月綸太郎『キングを探せ』は、四重交換殺人を企む犯人たちの席から幕を開ける長編です。
互いに無関係な四人が、互いの標的を引き受け合う。警察が動機から犯人をたどろうとしても、線はあらかじめ切れています。
その犯人たちに、法月警視と綸太郎の父子コンビが挑む。2011年に講談社から刊行され、翌年の第12回本格ミステリ大賞の候補になりました。
現在は講談社文庫で読めます。
物語の入り口
繁華街のカラオケボックス。集まったのは四人の男です。
互いに、もともとの知り合いではありません。共通しているのは、それぞれが殺したい相手を抱えているということだけ。
その日が、彼らの結団式でした。
計画はこうです。自分の標的を自分で殺せば、動機から足がつく。
だから、標的を取り換える。自分の殺したい相手は、他の誰かが殺す。
自分は、他の誰かの殺したい相手を殺す。動機のない人間が手を下すのですから、警察が動機から手繰ろうとしても、線はつながりません。
誰かが得をする死を、得をしない誰かが引き起こす。それを四人で、四回やる。
誰が誰を担当するかは、トランプのカードが決めていきます。四人分の殺意を、四人で交換する。
四重交換殺人です。
計画の外側に立つのが、法月警視と息子の綸太郎です。警視は警察の人間として、作者と同じ名前を持つ推理作家の綸太郎はその相棒として、父子で事件に当たります。
ただ、二人がふつうなら真っ先に手繰るはずの動機の線は、結団式の席で、はじめから断たれるように仕組まれています。カードを配る四人と、その外側にいる父子——犯人たちの側から始まる幕開けは、両者の頭脳戦の始まりでもあります。
読みどころ
この長編の読みどころは、動機の線があらかじめ切断された事件を、探偵がどう解くのかという枠組みそのものにあります。 ふつうの探偵小説なら、誰が得をするか、誰が恨んでいたかが手がかりになります。
ここでは、それが使えません。手を下した人間には、動機がない。
動機のある人間には、機会がない。犯人たちは、そういう状態を意図的に作りました。
父子の探偵は、動機に頼らずに、何を手がかりにするのか。その手がかりの選び方が、この作品の論理の核です。
動機という最も太い糸を最初から手放した探偵が、代わりに何を拾うのか。その拾い方を見るために、この作品はあります。
もうひとつは、犯人側の席から幕が開く構成です。読み手は、結団式の場にいます。
計画を知っています。警察が知らないことを、読み手は知っている。
その状態で、探偵の推理を読む。探偵が正しい方向に進んでいるかどうかを、読み手は判定できる立場にいます。
計画を知る者として探偵を見る。その視点が、ふつうの探偵小説とは違う緊張を生みます。
犯人たちの側に立って探偵を恐れるのか、探偵の側に立って犯人たちを追うのか——読み手は、その両方の席に座らされます。
四人の男が、それぞれの殺意を持ち寄って、カードで割り当てを決める。冒頭のこの場面には、奇妙な明るさがあります。
結団式、という言葉が示すとおりです。殺意を持ち寄る場が、決起の集いのような名で呼ばれている。
その取り合わせのちぐはぐさが、冒頭から読み手をつかんで離しません。
作品の背景
単行本は2011年12月に講談社から出ました。2012年の第12回本格ミステリ大賞小説部門の候補作でした。
同じ年の候補には麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』が並び、受賞は皆川博子『開かせていただき光栄です』と城平京『虚構推理 鋼人七瀬』でした。
手に取るなら
講談社文庫で336ページ、電子版もあります。法月綸太郎シリーズの12作目ですが、事件は独立していて、この一冊から読んで困りません。
犯人の側から始まる探偵小説が好きな人、動機なき殺人の論理に興味がある人に。交換殺人という古典的な発想を、四人分に拡張したらどうなるか。
二人の交換なら計画は単純ですが、四人になると組み合わせは一気に増えます。その答えを、法月父子と一緒に確かめる一冊です。
カードが配られるところから、頭脳戦は始まっています。
法月綸太郎について
法月綸太郎は1964年、島根県松江市に生まれました。京都大学法学部に進み、京大推理小説研究会では綾辻行人・我孫子武丸と同期でした。
1988年、島田荘司の推薦を受けて『密閉教室』でデビューし、新本格の書き手として歩み出します。第2作『雪密室』からは、作者と同名の推理作家・法月綸太郎が警視の父とともに事件に挑むシリーズを書き継いできました。
敬愛するエラリー・クイーンの設定にならった形です。
2002年に短編「都市伝説パズル」で第55回日本推理作家協会賞短編部門、2005年に『生首に聞いてみろ』で第5回本格ミステリ大賞を受賞しました。評論家としても知られ、クイーン作品を論じるなかで「後期クイーン的問題」を提起しています。
2013年から2017年まで本格ミステリ作家クラブの会長を務め、2025年には新保博久との往復書簡『死体置き場で待ち合わせ』で本格ミステリ大賞の評論・研究部門も受けました。
書誌情報
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