雑記

フランス 0–2 スペイン|xG 0.30、大会最強の攻撃が消えた夜

W杯2026準決勝、フランス0-2スペイン。シュートは10対10の互角で後半はフランスが押し込んだのに、決定機は0対3でした。大会7試合で最低となったフランスのxG 0.30が何によって作られたのかを、ファイナルサード進入のレーンとシュート品質から分解します。

目次

はじめに

準決勝の一戦は、テキサス州アーリントンのダラス・スタジアムに 70,176 人を集めて、スペインの勝利で終わりました。
得点は22分のPKと58分の2つだけです。
フランスは1点も返せないまま、大会を去りました。

翌朝の見出しは、得点王のエムバペに集まりました。
終盤に得たフリーキックが枠を越えていった場面が、その象徴として何度も映されています。
シュートは10対10の互角で、後半はフランスがスペイン陣内に居座り、コーナーを重ねました。
「あと一歩だった」という受け止めは、映像の記憶とよく合います。

ところが、この試合でフランスが積み上げた xG(ゴール期待値)は 0.30 でした。
それまでの6試合で一度も 1.45 を下回らなかったチームの、大会最低値です。
フランスは決定機を外したのではありません。
90分間で、ひとつも作れませんでした。
その90分がどう作られたのかを、順番にほどいていきます。

試合の全体像:数は互角、質は一方通行

まず得点経過から置きます。
22分、スペインがPKを獲得し、オヤルサバルが決めて先制しました。
58分には、自陣から続いたパス回しの果てにポロが右足で2点目を決めています。
アシストはオルモでした。


基礎スタッツの対比。シュートも支配率も互角なのに、大きなチャンスは 0対3。フランスのボックス内タッチ20回・コーナー7本という「押し込んだ形跡」が、決定機ゼロと同居している。

90分の合計だけを並べると、この試合は拮抗して見えます。
シュートは10対10、枠内シュートは3対2、ボール支配率は49対51。
ここまでなら、拮抗した準決勝の数字です。

ところが、チャンスの質を示す数字はまるで違うことを言っています。
xG は 0.30 対 1.63。
決定機と数えられる場面は 0 対 3 でした。
フランスは90分間で、決定機をひとつも作れていません。

枠に飛んだシュートの中身も同じです。
枠内シュートの危険度を測る xGOT は、フランスが 0.07、スペインが 1.57 でした。
フランスの枠内3本は、スペインのGKウナイ・シモンにとって、ほとんど脅威になっていません。
シモンのセーブは3回と記録されていますが、その3本を全部足しても 0.07 にしかならない、という内訳です。

積み上がり方を時間軸で見ると、90分の形はもっとはっきりします。


累積 xG の推移。●がゴール。スペインは22分と58分の2段で 1.6 に届き、フランスの線は終了間際までほぼ床に貼りついている。

スペインの線は、22分と58分に2度跳ねたきり、あとはほぼ水平です。
少ないチャンスを2つ決めて、そのまま逃げ切りました。
フランスの線が動くのは、ラスト数分になってからです。

前後半に割ると、前半のフランスが何もできていなかったことがわかります。
前半のシュートは2本、枠内は0本、xG は 0.04 でした。
45分間の攻撃の総量としては、ほとんど「無」に等しい数字です。

一方のスペインは、前半だけで 0.99 を積んでいます。
ただし、そのうち 0.79 は22分のPKです。
90分を通しても、PKを除いたスペインの xG は 0.84 でした。
つまりスペインも、チャンスを量産したわけではありません。
違ったのは、少ない場面の質のほうです。

数は互角、中身は一方通行。
では、大会を通して2点前後を刻んできたフランスの攻撃は、なぜこの夜だけ 0.30 で止まったのか。

消されたのは、大会最強の攻撃だった

0.30 という数字の異常さ

この試合でいちばん見落とされているのは、沈黙したのがどのチームだったか、です。

この大会のフランスは、屈指の得点源でした。
グループリーグから準々決勝まで、xG は毎試合のように2点前後を刻んでいます。
最も高かったのは、準々決勝のモロッコ戦の 3.69 でした。


フランスの大会7試合の xG。それまでの最低はパラグアイ戦の 1.45 で、6試合の平均は 2.39。準決勝の 0.30 だけ桁がひとつ違う。

グラフの一番下の棒がスペイン戦です。
それまで最も低かったパラグアイ戦の 1.45 と比べても、5分の1ほどしかありません。

決定機の数でも、同じことが起きています。
セネガル戦は4回、イラク戦は5回、ラウンド32のスウェーデン戦にいたっては7回。
6試合で一度も欠かさず作ってきた決定機が、この試合だけ 0 になりました。

では、スペインは何をしたのか。

運べてはいた。中央だけが閉じていた

意外に思われるかもしれませんが、フランスは「攻め込めていなかった」わけではありません。
ファイナルサード(敵陣3分の1)へ通した成功パスは 29本で、スペインの24本を上回っています。
敵陣ペナルティエリア内でボールに触れた回数も20回対13回、コーナーは7本対1本でした。
ボールは、確かに相手陣内まで運べていたのです。

問題は、どこから入れたかのほうでした。


ファイナルサードへの進入パスを到達レーン別に数えたもの。フランスの29本は左14・右12に対して、中央はわずか3本。

フランスの29本の内訳は、左14・中央3・右12です。
中央から入れたのは、9回に1回にも届きません。
スペインは中央のスペースを消し、フランスを外へ外へと押し出していました。

走って奪ったのではなく、立って閉じた

スペインの守り方も、数字から輪郭が出ます。
守備アクション(タックル・インターセプト・ボール回収・クリアなど)の平均位置を、ピッチを0から100として測ります。
スペインは 38.6、フランスは 41.6 でした。
スペインのほうが自陣側に重心を置いていたことになります。

敵陣3分の1まで出て奪いにいった回数も、スペイン12回に対してフランス11回で、ほとんど変わりません。
プレスの強度を測る PPDA(相手が自陣でパスを何本つなぐごとに、こちらが1回守備アクションを起こしたか。小さいほど強い)は、フランス 12.4 に対してスペイン 13.7。
数字の上では、スペインのほうがわずかに緩いくらいです。

つまりスペインは、前から追い回してフランスを止めたのではありません。
立ち位置で中央を閉じ、進む先のほうを消しました。

サイドに押し出されたフランスに残った手段は、クロスでした。
この試合、フランスは20本のクロスを上げています。
通ったのは4本で、5本に1本です。

そしてその先には、スペインの空中戦がありました。
競り合いに勝った回数はスペインが17回、フランスが8回。
勝率にすると68%対32%です。
外から入れても、中央では跳ね返される。
フランスの 0.30 は、こうして作られていきました。

押し込んだのに、決定機はゼロ

物量は倍増した

それでも、試合を見た人の記憶には「後半のフランスは押していた」という映像が残っているはずです。
その印象は、間違っていません。


フランスの前半と後半。シュートは2本から8本、ボックス内タッチは7回から13回へ増えた。それでも xG は 0.27、大きなチャンスは0のまま。

フランスのシュートは前半2本から後半8本へ、敵陣ペナルティエリア内のタッチは7回から13回へ増えました。
コーナーも3本から4本に増えています。
ボール支配率は前半の45%から後半は53%へ反転しました。
数字の上でも、フランスは確かに後半を押していたのです。

ところが、その後半に積み上がった xG は 0.27 でした。
決定機は前半も後半も 0 のまま動いていません。
クロスの試行数にいたっては、前半11本から後半9本へ、むしろ減っています。
物量は倍増したのに、質のほうはまったく上がりませんでした。

濃くなったのは、またしてもサイドだった

タッチの位置を地図に落とすと、その物量の中身が見えます。


フランスの相手陣内でのタッチ位置。後半(右)は前半より深く入っているが、密度が濃いのは両サイド寄りで、ゴール正面は薄いまま。

後半のフランスは、確かに敵陣深くまで入っています。
けれど密度が濃いのは相変わらず両サイドで、最も点になるゴール正面は、前後半を通して薄いままでした。

陣地は取れている。
侵入はできていない。
後半のフランスは、その典型でした。

流れの中で崩せないときの次の手は、セットプレーです。
フランスはこの試合、コーナーを7本獲得しました。
スペインは1本だけです。
それでも決定機は生まれていません。
むしろ、この試合のフランスで最も期待値の高いシュートが、65分にチュアメニがコーナーから放った 0.06 の1本だったという事実のほうが、90分の性格を言い当てています。

押していた時間の中身

時間の順序を重ねると、後半の物量はもう少し割り引いて読む必要があります。
フランスがギアを上げたのは、58分にポロの2点目が入ったあとです。
2点をリードして守りを固めた相手に対して、敵陣に居座っていた。
攻撃としては、最も点になりにくい形です。

スペインのベンチも、それに合わせて動いています。
5枚の交代はすべて2点目のあとに集中していて、73分のオヤルサバルを皮切りに、77分にオルモとファビアン・ルイス、83分にポロとバエナが退きました。
得点者2人がどちらも80分台までにピッチを離れている交代の並びです。

スペインは、2本で足りた

フランスが10本を鈍らせているあいだに、スペインは対照的な効率で試合を決めました。


両チームのシュート品質。本数は同じ10本でも、フランスの最大は 0.06、スペインは 0.79 と 0.52 を沈めている。

スペインのシュートも10本で、フランスと同数です。
違うのは中身でした。
22分のオヤルサバルのPKが xG 0.79、58分のポロのゴールが 0.52。
この2本だけで、スペインの90分の期待値の8割を占めています。
残りの8本で最も大きかったのは、38分のファビアン・ルイスのシュートの 0.12 でした。

一方のフランスは、10本すべてが 0.07 に届いていません。
最大の1本でも 0.06 です。
100本撃って6本入るかどうかの場面が、この試合のフランスにとっての「最高の場面」でした。

枠に飛んだ3本の中身も乏しいものです。
81分のドゥエと、90分のデンベレの2本。
この3本を合わせた xGOT が 0.07 ですから、GKが構えていれば止まる軌道だった、ということになります。
採点にもそれが出ていて、シモンは両チーム最高の 8.19 でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれ、フランスのマニャンは 5.64 でした。

とりわけ58分の2点目は、スペインの狙いが凝縮された1点です。
自陣から約50秒かけてボールを握り続け、最後は右サイドのポロが右足で決めました。
撃った位置の期待値は 0.52 で、枠内のコースまで加味した xGOT は 0.61。
撃った場所の価値を、コースがさらに上回っています。
外から放り込んで跳ね返されていたフランスと、ちょうど裏返しの形でした。

チャンスの数ではなく、質で殴る。
リードしたら危険を管理する。
スペインの 0-2 は、その積み重ねでした。

「決めきれなかった」のは、本当か

試合後、多くのメディアが同じ言い方をしました。
「エムバペは多くのチャンスがありながら沈黙した」。
「フランスは好機を作りながら決めきれなかった」。
得点王が無得点で終わった以上、そう見えるのは自然だと思います。

でも、この試合にフランスの「決めきれなかった好機」は、ほとんど存在していません。

決定機は90分で 0。
10本のシュートの xG を全部足しても 0.30 です。
これは「作った決定機を外した」数字ではなく、「決定機がそもそも無かった」数字だと思います。

どれくらい無かったのか。
フランスの10本を、それぞれの xG を成功確率としてそのまま計算にかけてみました。


フランスの全10本(xG 計 0.30)から出る得点数の分布。無得点が74%を占め、2点以上はわずか 3.4%。

無得点に終わる確率が 74% でした。
1点だけ入る確率が 23%、2点以上はわずか 3.4% です。
この10本を撃つ90分を4回繰り返せば、そのうち3回は0点で終わる計算になります。

比べる相手を置くと、差はもっとわかりやすくなります。
スペインはPKとポロの2本だけで、xG の合計が 1.31。
フランスの10本ぶん(0.30)の4倍以上を、たった2本で持っていたことになります。
同じシュート「数」でも中身がこれだけ違えば、スコアが 0-2 に開くのはむしろ自然な帰結です。

エムバペ個人を見ても、同じことが言えます。
彼のシュートは3本で、67分がセーブ、89分のフリーキックと90分が枠外でした。
3本の xG を合計しても 0.09 です。
決まって当たり前の場面は、ひとつもありませんでした。

だからこの言い方には、言い直しが要ります。
フランスが失敗したのはフィニッシュではありません。
決める場所まで運ぶことのほうです。

ただし、この言い方に一片の真実があることも書いておきます。
試合前の下馬評では、エムバペ、デンベレ、オリーズを擁するフランスが優位と見られていました。
その攻撃陣が0点に終わった以上、「らしくなかった」という受け止めそのものは成り立ちます。
エムバペ本人も試合後、戦術的にも技術的にも及ばず、スペインに試合を支配されたと認めたと報じられています。

エムバペの90分

この試合、フランスの先発フィールドプレーヤーで最も低い採点をつけられたのは、エムバペでした。
5.42 です。
90分フル出場での、この数字でした。

対照的に、採点の上位はスペインが占めています。
マン・オブ・ザ・マッチのシモンを筆頭に、ポロ 8.05、ファビアン・ルイス 7.97、オヤルサバル 7.73 と続きました。
最終ラインもクバルシ 7.67、クチュレジャ 7.61、ラポルテ 7.36 と高く、上位7人はすべてスペインの選手です。
フランスの最高はラビオの 7.42 でしたが、彼はハーフタイムで退いています。
ピッチに最後まで立った選手のなかでは、チュアメニの 6.92 が最高でした。

エムバペが相手陣内でボールに触れた回数は、37回あります。
数だけなら、消えていたわけではありません。
けれどその37回からシュートは3本しか生まれず、xG の合計は 0.09 にとどまりました。

思い出しておきたいのは、5日前の準々決勝でフランスが 3.69 を記録していたことです。
そのときのエムバペは、良いボールが入ってくる前提の上に立っていました。
この夜は、その前提のほうが外されています。

中央を締められ、外へ押し出され、クロスは跳ね返される。
得点王が消えたのではなく、得点王が生きる場所ごと消された90分でした。
彼を責めるのは簡単ですが、この採点はフランスの攻撃そのものの縮図だと思います。

まとめ

スコアは 0-2。
シュートは10対10、支配率も 49対51 の互角でした。
それでも決定機は 0対3 で、フランスの xG は 0.30。
大会7試合で断トツの最低値です。

ボールは運べていました。
ファイナルサードへの進入は29本で、スペインの24本を上回っています。
入れなかったのは中央だけで、29本のうち中央からは3本。
外へ押し出された先で上げたクロス20本は、4本しか通りませんでした。

後半は押し込みました。
シュートは8本、敵陣ペナルティエリア内のタッチは13回。
それでも決定機はゼロのままで、xG は 0.27 で止まっています。

スペインはPKとポロの2本で決着をつけました。
この2本の xG 合計 1.31 は、フランスの10本ぶんの4倍以上です。

「エムバペ不発」「決めきれなかった」という言い方は、半分だけ当たっています。
得点王が沈黙したのは事実です。
でもそれは決定機を外したからではなく、決定機がひとつも供給されなかったからでした。

見落としたくないのは、これがスペインにとって「守り勝ち」ではなかったことです。
支配率は51%で互角、守備の重心も特別に低いわけではありませんでした。
前から奪いにいくのでも、後ろに引きこもるのでもなく、立ち位置で相手の進む先を消して、少ないチャンスを確実に沈める。
攻守のバランスの上に成り立った 0-2 でした。

決勝に進んだスペインが、この守り方をどこまで持ち込めるのか。
次の90分を見るときは、支配率やシュート本数ではなく、決定機がどちらに何回あったかを数えてみてください。
この試合の続きは、たぶんそこに出ます。


データ:FotMob(xG・xGOT・チームスタッツ・採点)、WhoScored(イベントデータ)
対象:FIFAワールドカップ2026 準決勝 フランス 0-2 スペイン(2026年7月14日、テキサス州アーリントン)。比較はフランスの大会全7試合

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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