雑記

パラグアイ 0–1 フランス|1点差の90分に、枠内シュートは1本もなかった

W杯2026ラウンド16、パラグアイ0-1フランスをデータで分解。1点差の裏で枠内シュートは0対5、敵陣に通ったパスは10本対74本でした。大会でいちばん激しいプレスで攻撃を止めながら、流れの中からは1点も取れなかったフランスの90分を読み解きます。

目次

はじめに

ワールドカップ2026のラウンド16、パラグアイはフランスに 0–1 で敗れました。
決着は70分のペナルティキック1本だけです。
スコアだけを見れば、王者を最後まで苦しめた惜敗に映ります。

けれど90分の中身は、その見え方からかなり離れていました。
この試合を決めたのは、フランスが今大会でいちばん強くかけたプレスです。
前進の出口をふさがれたパラグアイは、相手のゴールキーパーに枠内シュートを1本も撃てないまま試合を終えました。
1点差という結果と、一方通行の90分。
その距離を順にほどいていきます。

1点差の裏にあった、0対5

まずは90分の数字を並べます。


前後半に分けた基礎スタッツ。パラグアイの枠内シュートは前半も後半も0本で、フランスは後半だけで xG 1.33 を積んでいる。

xG(ゴール期待値)は 0.13 対 1.48。
シュートは5本対15本で、枠に飛んだのは 0対5 でした。
ボール支配率は24対76、敵陣ペナルティエリア内でボールに触った回数は4回対25回。
コーナーキックは2本対12本です。
1点差というスコアに、この内訳はあまり似合いません。

前後半で割ると、フランスの進め方が見えてきます。
前半のフランスは支配率80%を握りながら xG は 0.13 で、枠内シュートも、決定機と数えられる場面もありませんでした。
急がずに外周でボールを回し、パラグアイのブロックを動かすだけの45分です。

後半になると数字が変わります。
xG 1.33、シュート10本、枠内5本、決定機2つ。
一方のパラグアイは後半も枠内0本のままで、敵陣ペナルティエリアでボールに触ったのは4回だけでした。
フランスが前半に積んだ 0.13 という xG は、パラグアイが90分かけて積んだ量とちょうど同じです。


累積 xG の推移。●が70分のペナルティによるゴール。パラグアイ(青)の線は90分を通してほとんど床から離れない。

累積 xG のグラフは、この試合の形をそのまま映しています。
フランスの線だけが階段を上がり、70分のペナルティで大きく跳ねる。
パラグアイの線は最後まで平地のままです。

ゴールキーパーの仕事量にも、同じことが出ていました。
セーブ数はパラグアイ側が4、フランス側は0。
守勢に回っていたはずのチームの守護神だけが働き、押し込んでいた側の守護神は90分間ひとつもシュートを止めていません。
「1点差の惜敗」と「枠内0本の完封負け」。
同じ試合を指す2つの言い方のうち、数字が支持するのは後者のほうです。

大会でいちばん激しかった夜

省エネの勝利ではなかった

0–1というスコアからは、フランスが力を抜いて1点だけ取った試合を想像したくなります。
ところがプレスの強度を測ると、実際はまるで逆でした。

PPDA という指標があります。
相手が自陣で何本パスをつなぐごとに、こちらが1回敵陣で守備アクションを起こしたかを表す数字で、小さいほど激しく捕まえにいっていることになります。


フランスの今大会5試合のPPDA。対パラグアイの 5.2 は、他の4試合のどれと比べても3分の1以下。

フランスの今大会の PPDA は、対セネガル 21.0、対イラク 19.0、対スウェーデン 14.6、ラウンド32の対ノルウェーで 12.7。
そしてこのパラグアイ戦が 5.2 でした。
平常の3分の1以下です。
この夜のフランスは、大会5試合の中でいちばん強くかみついていたことになります。

守備アクションの平均位置も、同じ方向を指しています。
自陣ゴールを0、敵陣ゴールを100とする物差しで測ると、この試合のフランスは 41.6。
今大会の他4試合は 33.0 から 46.7 のあいだにあり、平均は 38.8 です。
引いて構えるのではなく、前で奪う側を選んだ90分でした。

奪った場所が違っていた

どこでボールを奪ったのかを、両チームの地図で見比べます。


タックル・インターセプト・ボール回収の発生位置(攻撃方向は左→右)。フランスの奪取は中盤から前へ広がり、パラグアイは自陣ペナルティエリアの周辺に密集している。

奪取の平均位置はフランスが 41.6、パラグアイが 27.5。
敵陣3分の1で守備アクションを起こした回数は、フランスが20回に対してパラグアイは10回でした。
高い位置で奪えば、そのぶん相手ゴールに近いところから攻撃を始められます。
xG が10倍以上に開いた土台は、この奪う場所の差にありました。

圧の受け方は、パラグアイのボールの持ち方にそのまま出ています。
パスの総数は183本対569本、通った本数は98本対510本で、成功率は54%と90%。
敵陣でのパスに絞ると、44本対367本まで開きます。
ボールを持てず、持っても運べない。
空中戦で競り勝った数も6対17で、長いボールを蹴って逃げる道も開いていませんでした。
成功したロングボールは12本(成功率22%)で、フランスの23本(59%)とは通り方がまるで違います。

強度を上げれば、止め方も荒くなります。
ファウルの数はパラグアイ13、フランス11とほとんど同じでしたが、警告を受けたのはフランスの3人だけでした。
0–1の完封勝ちという結果からは想像しにくい、忙しい90分だったことが分かります。

ブロックそのものは崩れていない

ここで、パラグアイの守備が破綻したわけではないことを確認しておきます。
タックルは29本対13本、インターセプトは14本対10本、ブロックは4本対1本。
クリアも21本対27本で、受け身一方の数字ではありません。
90分で許した決定機は、後半の2つだけでした。

地上のデュエルに限れば、勝った数は44対39でパラグアイが上回っています。
球際で負けていたわけでもないのです。
守れていたことと、攻められなかったことは別の話でした。
フランスの圧が壊したのは、パラグアイの守備ではなく、パラグアイの攻撃のほうです。

敵陣に届いたパスは、90分で10本

入口が閉じていた

ファイナルサード(敵陣3分の1)に通った成功パスを、到達したレーン別に数えます。


敵陣3分の1へ通った成功パスの本数。パラグアイは3レーン合わせて10本で、中央はわずか1本だった。

パラグアイは左3・中央1・右6の合計 10本。
同じ数え方でフランスは左33・中央8・右33の合計74本でした。
7倍以上の開きです。
特定のサイドを封じられたというより、どのレーンからも入れていません。

得点が生まれるのは、ほとんどが敵陣、それもペナルティエリアの周辺です。
その入口が90分で10本、ボックス内でボールに触れたのが4回では、シュートが生まれないほうが自然でしょう。
パラグアイの枠内0本は、シュートの精度の話ではありません。
そもそもシュートの場面が作れなかったことの結果です。

サイドからの供給も止まっていました。
パラグアイが通したクロスは、90分で 0本(試行に対する成功率も0%)。
ドリブルで相手を外せた回数も4回で、フランスの15回とは差があります。
5本のシュートのうち、ペナルティエリアの中から撃てたのは1本だけ。
残りの4本はすべてボックスの外からでした。

前に出られないまま終わった

守備ラインの位置を15分刻みで追うと、その閉塞がもっとはっきりします。


守備アクション平均位置の15分推移。パラグアイ(青)は一度も30台の後半に届かず、フランス(オレンジ)は61-75分に 51.7 まで最前傾している。

パラグアイの守備位置は、開始15分の 19.9 から始まり、29.6、29.1、32.8、22.6、32.8 と推移しました。
どの時間帯を切り取っても20台から30台前半で、ブロックを押し上げてフランスを自陣へ押し返す時間がありません。
奪っても前進の出口がなく、また自陣で守ることになる。
90分間、この循環から出られませんでした。

フランス側の推移も見ておきます。
45.3 で入り、39.6、38.4、38.0 と少し下げたあと、61-75分に 51.7 まで上げました。
この試合で最も高い数字です。
そして最も押し込んだその時間帯の中、70分にペナルティが生まれています。

5本の中身

パラグアイのシュート5本を並べると、攻撃が機能していなかったことがさらに見えます。

28分にパラグアイのフニオル・アロンソとディエゴ・ゴメスが続けて1本ずつ撃ちました。
どちらも xG は 0.02 と 0.01 で、100回撃って1回か2回入る程度の場面です。
50分のミゲル・アルミロンの1本はゴールへ向かいましたが体に当たり、記録上の枠内シュートには数えられていません。
87分のアロンソの1本はスローインから、90分のマウリシオの1本が最後でした。
この日のパラグアイの最大の1本は、そのマウリシオの xG 0.06 です。

16回に1回入るかどうかという場面が、90分の最高値だったことになります。
連続した攻撃からシュートまでたどり着いた場面は、ひとつもありません。
5本はいずれも、時間の切れ間に単発で出たものでした。

4枚替えても数字は動かなかった

パラグアイのベンチが動かなかったわけではありません。
57分にオマル・アルデレテ、60分にフリオ・エンシソを下げ、70分にはディエゴ・ゴメスとミゲル・アルミロンを続けて代えました。
入ったのはホセ・カナレ、グスタボ・カバジェロ、マウリシオ、ガブリエル・アバロスの4人です。
最初に入ったカナレの出場時間は32分ですから、決して遅い動きではありませんでした。

それでも数字はほとんど動きませんでした。
後半のシュートは3本、枠内は0本、敵陣ペナルティエリアでボールに触れたのは4回。
支配率が20%から29%へ上がった程度で、押し返す形にはなっていません。
唯一の変化らしい変化は、この試合で最も期待値の高かった1本が、交代で入ったマウリシオの1本だったことです。
それも試合が終わる90分の出来事でした。

押し込んだ側も、流れの中からは決められなかった

ここでフランス側にも留保を付けておきます。
支配率76%、敵陣ペナルティエリアのタッチ25回、コーナー12本。
これだけ押し込みながら、フランスはオープンプレーから1点も取っていません。

15本のシュートからペナルティを除くと14本になり、その xG の合計は 0.69、ゴールは0でした。
90分押し込み続けて、流れの中から積めたのは1点分にも満たない量です。
唯一の得点は xG 0.79 のペナルティ1本。
つまりこの試合は、フランスが崩し切った試合ではありません。
押し込み続けた副産物として、ペナルティを1本引き当てた試合でした。

フランスのベンチも、その時間帯に動いていました。
60分にブラッドリー・バルコラを下げてデジレ・ドゥエを送り出し、83分にウスマン・デンベレをラヤン・シェルキに代えています。
ドゥエの出場は29分でしたが、そのあいだにチャンスにつながるパスを3本通しました。
90分出たムバッペの2本を上回り、この日のチーム最多です。
交代とペナルティが同じ時間帯に並んでいるのは事実ですが、どちらが原因かまでは数字からは決められません。

そのペナルティが生まれた70分は、フランスの守備位置がこの試合で最も高くなっていた時間帯の中にあります。
ボックス周辺の人の密度が上がれば、ファウルで決着がつく確率も上がる。
圧の高まりが引き寄せた1点だったと読めます。

裏返せば、パラグアイのブロックは流れの中では最後までこじ開けられていません。
守り切る力はパラグアイにあり、勝ち切る力はフランスにあった。
この90分は、その2つが別々の場所に置かれたまま終わりました。

「苦しめた」はどこまで本当か

試合後には、パラグアイの守備がフランスをてこずらせた、試合の4分の3まで王者を苦しめた、という受け止めが並んだと報じられています。
まずは、その根拠を確かめておきます。

決定機を2つしか許さず、ゴールキーパーが完封に近い働きをして、失点はペナルティ1本、スコアは 0–1。
守備の局面に限れば、これらはすべて事実です。
フランスに大会5連勝を許しながら、最後までゴール前を固め続けたのは立派でした。

問題は、「苦しめた」を「勝ちに近づいた」と読み替えたときに起こります。

この試合で実際に生まれた全20本のシュートの xG を、その確率で表が出るコインだと考えてみます。
90分をそのコインで1万回引き直すと、結果の分布はこうなりました。


両チームの全シュートの xG を確率として1万回試行した90分結果の分布。パラグアイが勝つ夜は1.6%しかない。

パラグアイ勝ち 1.6%、引き分け 13.7%、フランス勝ち 84.7%。
パラグアイが勝ち点を持ち帰る未来は、勝ちと引き分けを合わせても15%ほどです。
1点でも取れる確率は 12.0% で、7回に6回は無得点に終わる内容でした。

ですから「苦しめた」は、守備の粘りについては正しいと思います。
けれど「勝利に近づいた」という意味では、数字はほとんど支持しません。
言い直すなら、パラグアイは失点を最小化する戦いには成功したが、勝ち筋そのものは90分間ほぼ閉じていたということになります。

留保も添えておきます。
このシミュレーションは、この試合で生まれたシュートの質を確率に翻訳したものであって、パラグアイの実力そのものの推定ではありません。
前半のフランスがもっとペースを上げていれば、パラグアイが受けた圧はさらに強かった可能性もあります。
20本というサンプルの小ささも、忘れるべきではないでしょう。

ひとつ付け加えると、この日のパラグアイが「らしくない試合」をしたわけでもありません。
今大会5試合の守備の平均位置は、対アメリカ 30.0、対トルコ 26.1、対オーストラリア 32.7、対ドイツ 22.7、そしてこのフランス戦が 27.5。
低く構えるのは、もともとこのチームの設計でした。
違ったのは相手のほうです。
いつもどおり深く守り、いつもどおり出口を探したら、その出口が一度も開かなかった。

完封を統べたセンターバックと、7.70 の守護神

この試合のマン・オブ・ザ・マッチは、得点者のムバッペ(8.19)ではなく、フランスのセンターバック、ダヨ・ウパメカノ(8.26)でした。
攻撃陣のタレントで語られがちなチームで、最終ラインの選手が最高評価を受けたこと自体が、この90分の性格を表しています。
ボールに触った回数は83回。
チーム最多のコネ(87回)、サリバ(84回)に続く3番目で、守るだけでなく後方からボールを動かし続けた側の数字です。

得点はムバッペのペナルティで、これで今大会7点目。
メッシと得点ランキングの首位に並びました。
ただ、この日のフランスを象徴するのは一撃の破壊力よりも、枠内シュートを1本も許さなかった守備の側だと思います。

そしてもう1人、敗れた側にも触れておきます。


シュートの質の比較。パラグアイは枠内0・最大でも xG 0.06。フランスの守護神は90分間ノーセーブで、パラグアイの守護神は xGOT 1.88 を浴びて 0.88 相当を防いだ。

パラグアイのゴールキーパー、オルランド・ヒルです。
ヒルが浴びた枠内シュートは5本で、枠内の軌道まで加味した xGOT の合計は 1.88。
失点はペナルティの1本だけですから、差し引き 0.88 点分をセーブで消したことになります。
レーティング 7.70 はパラグアイの最高値で、90分間ノーセーブに終わったフランスのマイク・マイニャン(7.65)を上回りました。

浴びた5本のうち3本は、89分以降に集中しています。
終盤に立て続けに来た場面を止め続けたことが、0–1 という結果を最後まで保たせました。
もしヒルが平均的な出来だったなら、スコアは 0–2 か 0–3 になっていた可能性が高い。
ただ、それは「あと一歩で勝てた」とは違う話です。

まとめ

この試合をデータで分解すると、3行にまとまります。

フランスは力を抜いたのではなく、今大会でいちばん激しいプレス(PPDA 5.2)でパラグアイのビルドアップを潰し続けました。
パラグアイの敵陣進入は全レーン合わせて10本、枠内シュートは0本で、守備は保ったのに前進の出口が最後までありませんでした。
そしてフランスも流れの中からは無得点で、決着はペナルティ1本。
それでも90分を1万回やり直してパラグアイが勝つのは 1.6% で、勝ち筋は細いままでした。

「苦しめた」は半分正解だと思います。
守備の粘りとゴールキーパーの奮闘は、数字でも本物でした。
けれど攻撃は一度も機能せず、勝ちに近づいた時間はほとんどありません。
スコアの惜しさと、中身の距離。
その両方を持ち帰るのが、この敗戦の振り返り方ではないでしょうか。

フランスの現在地も、この90分に出ています。
タレントで殴り勝つのではなく、大会最高強度のプレスと、センターバックが最高評価になる守備で1点を守り切る。
派手さはなくとも、こういう試合を落とさないチームがトーナメントを勝ち上がっていくのだと思います。

パラグアイのワールドカップは、ラウンド16で幕を閉じました。
勝ち上がったフランスは、準々決勝でモロッコと対戦します。
守備で勝ち上がってきたこのチームが、次はどこまで攻撃のギアを上げるのか。
そこは印象ではなく、また数字で追いかけてみます。


データ:FotMob(xG・xGOT・チームスタッツ・レーティング)、WhoScored(イベントデータ)
対象:FIFAワールドカップ2026 ラウンド16 パラグアイ 0-1 フランス(2026年7月4日)。比較は両チームの同大会5試合

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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