ブラジル 1-2 ノルウェー|xG 2.61 の中身は、PK2本だった
W杯2026 ラウンド16、ブラジルがノルウェーに1-2で敗れて大会を去りました。xG は 2.61 対 1.05 でブラジルが上回りながら、その 1.58 はPK2本分。ハーランドの2発は合計 xG 0.12。90分をデータで分解します。
目次
はじめに
ワールドカップのラウンド16で、ブラジルがノルウェーに 1-2 で敗れました。
2ゴールを決めたのはノルウェーのハーランド。
王国は1990年大会以来の早さで大会を去ったと報じられています。
試合後に並んだのは「ハーランドがブラジルを倒した」という一行でした。
ところが90分の数字を見ると、ゴール期待値(xG)はブラジル 2.61 対ノルウェー 1.05 で、負けたほうが倍以上を積んでいます。
この試合を決めたのは、その 2.61 の中身です。
2.61 のうち 1.58 はPK2本分で、PKを外すと 1.04 対 1.05 のほぼ同じ数字になります。
五分の90分を、ノルウェーが交代とGKと決定力で持ち去った。
その内訳を、順にほどいていきます。
持っていたのはノルウェー、迫っていたのはブラジル
まずは全体の数字を置きます。

前後半に割った基礎スタッツ(伯=ブラジル、諾=ノルウェー)。ボールを握ったのはノルウェーだが、シュートもボックス内タッチもブラジルが上回っている。
支配率は 34対66。
成功パスは 279本対618本で、ノルウェーが倍以上つないでいます。
ところが敵陣ペナルティエリアの中でボールに触った回数は、ブラジル33対ノルウェー15。
シュートは14本対9本、決定機と数えられた場面は5対3で、いずれもブラジルが上回りました。
ボールを持っていたのはノルウェー、ゴール前に入り込んでいたのはブラジル。
この食い違いが、90分を読むときの最初の目印になります。
ボールを追う側の仕事量も、そのまま数字に出ています。
タックルは 23対14、インターセプトは 11対6、クリアは 21対18。
いずれもブラジルが上回りました。
34%の保持で戦うということは、それだけ守る時間が長いということでもあります。
前後半で割ると、両チームの歩き方の違いも見えてきます。
ブラジルは前半に敵陣ボックスで21回触り、後半は12回へ減りました。
ノルウェーはその逆で、前半の4回から後半は11回へ増えています。
それでも xG は前半 0.57、後半 0.49 と、2点を取った後半のほうがわずかに小さいままでした。
到達する回数は増えたのに、チャンスの総量は増えていない。
このねじれは、あとでもう一度出てきます。
累積 xG の積み上がり方も見ておきます。

累積 xG の推移。●がゴール。ブラジルの線にある2つの大きな段差は、14分と90分のPK。
ブラジルの線には、階段のような段差が2つあります。
14分と90分、どちらもPKです。
1本あたり 0.79 の価値を持つシュートが、2本。
この2段を取り除くと、ブラジルの線はノルウェーとほとんど同じ高さで終わります。
数字の見た目ほど、ブラジルはゴールに近づいていませんでした。
ここからは、その中身を3つに分けて見ていきます。
66%は、ゴール前まで届かなかった
敵陣までは運べていた
まずノルウェーの66%から。

ノルウェーは支配率66%・成功パス618本を記録しながら、敵陣ボックス内タッチは15回。ブラジルは34%・279本の保持で33回まで侵入した。
618本の成功パスのうち、敵陣で通したものは341本でした。
ブラジルは279本のうち156本ですから、敵陣まで運んだ量でもノルウェーが倍以上です。
それでいて、敵陣ペナルティエリアの中で触れたのは90分で15回だけ。
6分に1回しかゴール前に入れていない計算になります。
ボールに触れた選手の顔ぶれにも、同じことが出ています。
ノルウェーでタッチ数が多かったのは中盤のベルゲで130回、次いでキャプテンのウーデゴールが124回でした。
最前線のハーランドは30回です。
ボールは後方と中盤で回り続け、その循環が最後の30メートルまで貫通していません。
47本のうち24本が、同じレーンだった
敵陣3分の1へ通した成功パスを、到達したレーンごとに数えてみます。

ファイナルサードへの成功パス本数(到達レーン別・90分)。ノルウェーは合計47本でブラジルの37本より多いが、敵陣ボックス内タッチは15対33で逆転する。
ノルウェーは合計47本で、ブラジルの37本より多く入っています。
ただし内訳は右24・左16・中央7で、半分以上が右に寄っていました。
ブラジルは左14・中央11・右12と、ほぼ均等です。
入口がひとつのレーンに偏るほど、そこを閉じられたときの行き先はなくなります。
もっとも、これが「狙って右に集めた」のか「右しか空いていなかった」のかまでは、数字では決められません。
言えるのは、47本の半分がひとつのレーンに集まっていたという事実までです。
この日のノルウェーで最も期待値の高いシュートは、45分のウーデゴールの1本で xG 0.40。
前半のうちに一度だけ、ゴール前で形になった場面がありました。
チーム全体では9本を撃って xG 1.05。
支配率66%の90分から出てきたのは、その程度の量です。
高さだけは、ノルウェーのものだった
一方で、ノルウェーが明確に上回っていた領域もあります。
空中戦の勝利数は 4対11。
勝率にすると 27%対73%で、ブラジルは頭上の争いをほとんど落としています。
コーナーは 5対5と同数でしたが、セットプレーから生まれた xG は 0.09 対 0.26 でノルウェーが上でした。
67分にはハーランドがコーナーから xG 0.26 のシュートを撃っています。
地上のデュエルはブラジルが 39対32、勝率 55% で上回りました。
足元では互角以上、頭上では劣勢。
ノルウェーがゴール前で作れた数少ない場面の質は、この非対称と重なっています。
2発の合計は xG 0.12
低い確率を、2本続けて沈めた
では、その少ないチャンスから、ノルウェーはどうやって2点を取ったのか。

3ゴールの内訳。ハーランドの2発は合計 xG 0.12。枠内のコースまで加味した xGOT は 0.32 と 0.38 に跳ね上がる。
79分の1点目は xG 0.08。
90分の2点目は xG 0.04。
2本を合わせても 0.12 ですから、10回に1回入るかどうかのシュートを続けて2本沈めたことになります。
ただし、枠内のどこへ飛んだかまで加味した xGOT は 0.32 と 0.38 まで上がります。
入りにくい位置から、止めにくい場所へ蹴り込んだ。
ハーランドの2発は、そういう種類のゴールでした。
この日のハーランドのボールタッチは、90分で30回だけです。
ベルゲの130回、ウーデゴールの124回と比べると、際立って少ない。
その30回のうち4回がシュートになり、2本がゴールになりました。
4本の xG は合計 0.47 ですから、期待値のうえでは1点も入らずに終わってもおかしくない90分です。
後半の45分だけを戦った1枚
そして、この2発を作ったのはハーランドではありません。
どちらのアシストも、後半の45分だけを戦ったシェルデルップのものでした。
ノルウェーはハーフタイムでセルロートを下げています。
後半頭からピッチに立ったシェルデルップは、45分間で41回ボールに触り、決定機を2度作りました。
レーティング 8.29 はチームで2番目の高さです。
ノルウェーの2得点が79分と90分に集中していることも、これと重なります。
前半のノルウェーは敵陣ボックスで4回しか触れていませんでした。
それが後半は11回に増え、終盤に2発が生まれています。
ゴール前に入る回数が増えた時間帯と、得点が生まれた時間帯は、そのまま重なっていました。
ただし、増えたのは到達の回数までです。
後半のノルウェーの xG は 0.49 で、前半の 0.57 を下回りました。
チャンスの質が上がったから2点入ったのではなく、質の低い場面を2つとも決めた。
そう読むほうが、この90分の数字には忠実だと思います。
ここで断っておくと、交代が押し上げの原因だったかどうかは、数字からは決められません。
わかるのは、後半頭に入った選手が45分で2つの決定機を作り、その2つがどちらも得点になったという事実の並びまでです。
2.61 を、1点で終えた側
xG のうち 1.58 はPKだった
敗れたブラジル側に移ります。

シュートの質。ブラジルの xG 2.61 のうち 1.58 はPK2本分。PKを除くと 1.04 対 1.05 でほぼ互角になる。
ブラジルの xG 2.61 のうち、1.58 はPK2本分でした。
14分のブルーノ・ギマランイスと、90分のネイマール。
どちらも1本 0.79 の期待値を持つシュートです。
PKを外して流れの中のシュートだけを取り出すと、ブラジルは12本で xG 1.04、得点は0。
ノルウェーは 1.05 です。
流れの中の勝負としては、ほぼ同じだけの中身しか作れていませんでした。
前後半に割ると、その内訳はもう少しはっきりします。
前半のブラジルは xG 1.13 を積みましたが、そのうち 0.79 は14分のPKです。
残りは 0.34。
敵陣ボックスで21回触った45分の中身が、それでした。
後半は 1.49 のうち 0.79 が90分のPKで、残りは 0.70 になります。
ゴール前に33回入って、枠内は4本
流れの中で最も惜しかったのは、59分のエンドリッキのシュートでした。
カウンターから生まれた xG 0.56 の場面で、ブラジルがこの試合に作った唯一の 0.5 超えです。
これは枠を外れました。
12本の中身を並べると、この試合のブラジルの姿がわかります。
xG が 0.1 を超えたのは2本だけ。
59分のエンドリッキと、40分のヴィニシウス・ジュニオールの 0.13 です。
残りの10本は、いずれも細かい積み重ねでした。
決定機と数えられた場面は5つあり、そのうち4つを決めきれずに終わっています。
14本のうち枠を捉えたのは4本だけ。
枠を外れた6本、ブロックされた4本、そしてクロスバーかポストに当たった1本が残りました。
敵陣ペナルティエリアの中で33回もボールに触れて、枠に飛んだのは4本。
クロスにいたっては、通ったのが1本(成功率 6%)だけです。
浴びた期待値と、失点の数
もうひとりの主役はGKです。

両GKの働き。ニュランは浴びた xGOT 1.76 に対して1失点、アリソンは 1.66 に対して2失点だった。
ノルウェーのニュランは、枠内シュートを4本浴びました。
そのコースまで含めた期待値の合計は 1.76 です。
それに対して失点は、90分のPKによる1点だけでした。
差し引き 0.76 点分を、この日は手前で止めていた計算になります。
14分のブルーノ・ギマランイスのPKを止めたのも、この4本のうちの1本です。
ブラジルのアリソンは枠内5本、xGOT 1.66 に対して2失点。
期待値を 0.34 下回りました。
ハーランドの2本はどちらも枠の隅を突く難しいシュートで、責めるのは酷かもしれません。
それでも両GKの働きの差だけで、1点以上がひっくり返っている計算になります。
レーティングの並びにも、同じことが出ています。
この試合の上位5人は、ハーランドの 8.84 を筆頭にすべてノルウェーの選手でした。
シェルデルップ 8.29、ニュラン 8.27、ベルゲ 7.85、パトリック・ベルグ 7.51。
ブラジルで最も高かったのはヴィニシウス・ジュニオールの 7.36 で、全体では6番目です。
採点表の下のほうに残ったもの
ブラジルの先発で最も低い採点は、14分のPKを止められたブルーノ・ギマランイスの 5.79 でした。
途中出場のエンドリッキも 5.73 です。
PKを止められた選手と、59分の決定機を外した選手が、そのまま採点表のいちばん下に並んでいます。
一方、66分から入って90分のPKを決めたネイマールは 7.19 でした。
23分の出場で、ブラジルにこの日唯一の得点をもたらしています。
1点を取り返したのが、ピッチの上にいた時間が最も短い部類の選手だったというのも、この試合の形を映しています。
本当に「ハーランドが一人で倒した」のか
試合後、この90分は「ハーランドがブラジルを倒した」という一行で語られました。
2ゴール、最優秀選手、レーティング 8.84。
そう言いたくなる材料はそろっています。
フィニッシュの部分に限れば、その通りだと思います。
合計 xG 0.12 の2本を続けて決め切るのは、誰にでもできることではありません。
ただし「一人で倒した」まで広げると、こぼれるものが3つ出てきます。
2本のアシストが、どちらも後半の45分だけを戦った選手のものだったこと。
14分のPKを止めたGKがいたこと。
そして、流れの中の中身がもともと五分だったことです。
3つめは、確率に置き換えてみるとわかりやすくなります。
両チームの全シュートの xG を「その確率で入るコイン」に見立て、90分を1万回引き直しました。

両チームのシュート xG を確率として1万回試行した結果。PK込みだとブラジル勝ちが78.3%だが、オープンプレーだけなら三分の一ずつになる。
PK2本を含めた全シュートで回すと、ブラジル勝ち 78.3%、引き分け 15.3%、ノルウェー勝ち 6.4%。
額面どおりに受け取れば、ノルウェーの勝利は16回に1回の出来事に見えます。
ところがPKを外し、流れの中のシュートだけで回すと景色が変わります。
ブラジル勝ち 33.7%、引き分け 33.7%、ノルウェー勝ち 32.5%。
三分の一ずつの、ほとんど五分の勝負です。
同じ試行では、ブラジルが1点以下で終わる確率も 12% ほどありました。
起きたことは珍しい部類ですが、16回に1回というほど珍しくはありません。
だから「ハーランドがブラジルを倒した」は、半分だけ当たっています。
正確には、ノルウェーは五分の勝負を、交代とGKと決定力の3つで勝ち切りました。
ハーランドは、その束のいちばん目立つ結び目だったと思います。
留保も添えておきます。
ここでの「五分」は、この試合に生まれた23本のシュートの質から言えることで、1試合ぶんのサンプルにすぎません。
両チームの実力そのものの比較ではない、という前提は外さないでおきます。
まとめ
90分を3行にまとめます。
- ボールを持ったのはノルウェーで支配率は66%。ただし敵陣ボックス内タッチは15対33、ファイナルサードへの47本は右に24本と偏っていた
- ハーランドの2発は合計 xG 0.12 の低確率弾で、どちらのアシストも後半の45分だけを戦ったシェルデルップのもの
- ブラジルの xG 2.61 のうち 1.58 はPK2本分。PKを除けば 1.04 対 1.05 で、流れの中の勝負はほぼ互角だった
そのうえで、両ゴール前の差が1点分をひっくり返しました。
ニュランは 0.76 点分を防ぎ、アリソンは 0.34 点分を余計に失っています。
ブラジルは xG で上回り、ゴール前にも多く入りながら、決めきれずに大会を去りました。
これを「決定力不足の悲劇」と一言で片づけると、起きたことの半分を見落とします。
流れの中の中身がもともと五分だった以上、これは取りこぼしではなく、競り負けた90分でした。
勝ち上がったノルウェーは、準々決勝でイングランドと当たります。
ボールは握れるのに、ゴール前には15回しか入れなかったチームが、次はどんな90分を見せるのか。
そこも、印象ではなく数字で追いかけていきます。
データ:FotMob(xG・xGOT・チームスタッツ・シュート・レーティング)、WhoScored(イベントデータ)
対象:FIFAワールドカップ2026 ラウンド16 ブラジル 1-2 ノルウェー(2026年7月5日)。数字は特記のないかぎりこの1試合のもの
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