雑記

ノルウェー 1-2 イングランド|90分間は、ノルウェーの試合だった

W杯2026 準々決勝、イングランドが延長の末にノルウェーを 2-1 で下しました。ただし90分だけで割ると xG は 0.52 対 0.27 でノルウェーが上。プレスを捨てた90分と、枠内シュート0対6の延長30分をデータで分解します。

目次

はじめに

ワールドカップの準々決勝、マイアミの一戦は延長までもつれ、イングランドが 2-1 でベスト4へ進みました。
決めたのはベリンガムの2発です。
前半アディショナルタイムに同点弾、延長前半にコーナーの混戦から決勝点。
翌日の見出しが彼の名前で埋まったのは、自然なことだと思います。

ただ、ハイライトには映らない90分がありました。

90分が終わった時点の xG(ゴール期待値)は、ノルウェー 0.52 対 イングランド 0.27。
枠内シュートは4対2、敵陣ペナルティエリア内でボールに触った回数は24対21です。
数字の上では、ノルウェーの試合でした。

この試合を決めたのは、90分の中身ではありません。
延長の30分と、枠に飛んだときのシュートの質です。
順にほどいていきます。

120分の合計が隠していたもの

まずスコアボードから。


基礎スタッツを90分と延長30分で分割したもの。左半分と右半分では、まったく別のチームが立っている。

120分の合計だけを見ると、xG は 0.68 対 1.04 でイングランドが上です。
シュート数も13対14。
「順当に上回っていた試合」と読める数字が並びます。

ところが、90分と延長で割ると絵が反転します。

90分だけなら、xG は 0.52 対 0.27、枠内シュートは4対2、敵陣ボックス内タッチは24対21。
どれもノルウェーが上です。
延長30分だけなら、xG は 0.16 対 0.77、枠内シュートは0対6。
こちらはすべてイングランドのものになります。

つまりイングランドの優位は、延長の30分間だけで作られたものでした。

積み上がり方を見ると、それが目に見えます。


累積 xG の推移。●がゴール。35分から90分の縦線までは、ノルウェーの線が上を走り続けている。

先に立ち上がるのはイングランドの線ですが、35分にノルウェーが追い越すと、そこから90分の縦線まで一度も並ばれていません。
ノルウェーが上を走り、イングランドが下を這う。
そして90分を過ぎた瞬間に、イングランドの線が垂直に跳ね上がります。

同じ90分をもう一段割ると、負け方が2種類あったこともわかります。
前半のイングランドは支配率68%を握りながら、xG は 0.18 対 0.34 で下回りました。
後半は支配率まで手放して44%です。
敵陣ボックス内タッチも、前半の10対7から後半は11対17へ逆転しています。

なぜそうなったのか。
答えの半分は、イングランドの守り方にありました。

90分間、イングランドは前から行かなかった

大会6試合でいちばん緩かった夜

プレスの強さは PPDA という数字で測れます。
相手が自陣で何本パスをつなぐごとに、こちらが敵陣で1回守備アクションを起こしたか、という指標です。
数値が大きいほど、プレスは緩いことになります。


イングランドの守備アクション位置と PPDA。ノルウェー戦の 21.6 だけが桁違いに緩い。

この試合のイングランドは 21.6 でした。

大会の他5試合を見ると、クロアチア戦が 12.6、ガーナ戦が 4.1、パナマ戦が 7.1、コンゴ民主共和国戦が 11.5、メキシコ戦が 11.0。
平均すると 9.3 です。
21.6 はその2倍以上で、次に緩いクロアチア戦と比べても大きく離れています。

言い換えると、ノルウェーが自陣で21本パスを回して、ようやく1回だけイングランドが敵陣で足を出した、ということになります。
ガーナ戦の5分の1以下の頻度です。

「引いた」のとは、少し違う

ここは慎重に見る必要があります。

守備アクションの平均位置は 35.6 で、この大会のイングランドとして極端に低いわけではありません。
自陣に押し込まれたメキシコ戦は 25.1 でしたから、ラインをそこまで下げていたわけではないのです。

にもかかわらず、敵陣3分の1で足を出した回数は15回でした。
ガーナ戦の25回、パナマ戦の28回の半分程度です。

ラインは中盤に置いたまま、前からは追わない。
それがこの90分のイングランドでした。

これが選んだ形なのか、ノルウェーのつなぎに剥がされ続けた結果なのかまでは、数字は答えてくれません。
ただ、行こうとして行けなかったにしては、試みた痕跡が少なすぎるとは思います。

敵陣にいたのはイングランド、箱に入ったのはノルウェー


90分(延長を除く)の相手陣内でのタッチ位置。攻撃方向は左から右。

90分のあいだに相手陣内でボールに触れた回数は、イングランドが403回、ノルウェーが195回。
2倍以上の差があり、支配率も56対44でイングランドが上でした。

ところが敵陣ペナルティエリア内のタッチだけは、24対21でノルウェーが上回ります。

イングランドは敵陣に「いた」けれど、箱には入れなかった。
ノルウェーはボールを持てていないのに、ゴール前には届いていた。

地図を見ると、ノルウェーの密度は右のハーフスペースからペナルティエリアの角にかけて濃く固まっています。
少ない手数で、同じ場所を繰り返し突いていたことになります。

後半、ゴールキーパーは仕事をしていない

イングランドの後半の数字を、そのまま置きます。

シュート3本、枠内シュート0本、xG 0.09。

45分間、ノルウェーのゴールキーパーに一度も仕事をさせていません。

前半は「持っているのに刺せない」、後半は「持つことすらできない」。
イングランドの90分は、この2段階で悪くなっていきました。
前から奪いに行かないチームは、押し返す起点も持てません。
PPDA 21.6 は、その両方に共通する背景でした。

二度、あと数センチだった

一方のノルウェーは、決定機の手前まで届いています。

44分、セルロート(アトレティコ・マドリード)がカウンターから放った一本は xG 0.19。
この試合のノルウェー最大の好機で、ブロックされました。

76分、アイエル(ブレントフォード)がコーナーから合わせたヘディングは xG 0.09。
こちらはポストを叩いています。

0.19 は5回に1回、0.09 は10回に1回の確率です。
派手な決定機ではありません。
ただ、90分の xG が 0.52 しかない試合では、この2本が試合を決めうる2本でした。
合わせて 0.28 ぶん。
ポストの数センチ内側なら、この記事はまったく別の話になっていたはずです。

ペースを変えたのは、イングランドだけだった

「ノルウェーが力尽きた」ではない

90分を終えて 1-1。
ここから何が起きたのか。

よくある説明を先に潰しておきます。
「延長でノルウェーの足が止まった」——これは数字に合いません。

90分と延長30分では長さが違うので、単純な合計を並べても意味がありません。
15分あたりのペースに揃えて比べます。


15分あたりの xG。ノルウェーの棒は、90分と延長でほとんど変わっていない。

ノルウェーは 0.09 から 0.08 へ。
ほぼ横ばいです。
彼らのペースは、延長でも落ちていません。

イングランドは 0.05 から 0.39 へ。
およそ8.6倍になりました。

変わったのは、イングランドだけです。
ノルウェーが失速したのではなく、イングランドが90分間出していなかったものを最後の30分で出した。
それがこの試合の反転の正体でした。

枠内シュート 0対6

延長の数字を、もう一度並べます。

枠内シュートはノルウェーが0本、イングランドが6本。
枠内シュートのコースまで加味した期待値である xGOT は、0.00 対 2.24 です。

ノルウェーも延長で4本は撃っています。
ただ、2本はブロックされ、2本は枠を外れました。
イングランドは延長の7本のうち6本を枠に飛ばしています。

ここでハーフタイムの2枚替えが効いてきます。
イングランドは45分ちょうどにマドゥエケとライスを下げ、サカとエゼを送り出していました。
さらに85分にスペンス、89分にロジャーズを投入しています。

延長にシュートを放ったのは、サカ、スペンス、ロジャーズ、そしてベリンガム。
枠内6本のうち5本は、途中出場の選手が撃ったか、その流れから生まれたものでした。

決勝点は、コーナー1本の混戦から

その延長前半3分、93分です。


93分、同じ1分間にイングランドのシュートが3本。3本ともひとつのコーナーから記録されている。

93分には、イングランドのシュートが3本記録されています。
しかも3本ともコーナーからです。

最初はケイン(バイエルン)のヘディングで xG 0.01。
次がロジャーズ(アストン・ヴィラ)の右足で xG 0.02。
どちらもゴールキーパーに止められました。

3本目がベリンガム(レアル・マドリード)です。
xG 0.44、xGOT 0.96。
この試合でイングランドが放った14本のうち、いちばん入りやすい位置からの一本でした。

コーナーの混戦が二度弾かれ、三度目にいちばんおいしい場所へボールが転がった。
そこにベリンガムがいた、ということになります。

ゴールキーパーがロジャーズのシュートを弾ききれなかった、とも報じられています。
記録の形はその説明と矛盾しませんが、弾くしかなかったのか処理を誤ったのかまでは、数字からは決められません。

「ハーランドは消えていた」は、どこまで正しいのか

試合後、こういう書かれ方をしました。

「ノルウェーは体の重いハーランドを下げて反撃を試みるが、最後までネットを揺らすことはできず」

大会4試合で7得点を挙げていた今大会最大のストライカーが、この夜は沈黙した、という評です。

5試合で最低の夜


ハーランドの出場5試合。イングランド戦だけが、明らかに別の水準にある。

ハーランドの大会5試合を並べます。

グループリーグ第1節のイラク戦は2得点、シュート5本、xG 1.85、レーティング 9.17。
第2節のセネガル戦も2得点、シュート5本、xG 0.84、レーティング 9.04。
ラウンド32のコートジボワール戦は1得点でレーティング 7.80、ラウンド16のブラジル戦は2得点でレーティング 8.84 でした。

そしてイングランド戦は、0得点、シュート2本、xG 0.11、レーティング 6.35。
シュートも xG もレーティングも、5試合で最低です。

しかも彼は、延長を含めて105分プレーしています。
90分あたりのタッチ数に直すと 18.0 で、これも5試合で最低でした。
他の4試合は 20.0 から 30.0 のあいだです。

105分で撃った2本は、どちらもヘディングでした。
35分の一本は止められ、53分のコーナーからの一本は枠を外れています。
合わせて xG 0.11。
足でシュートを撃つ場面は、105分間で一度もありませんでした。

数え直すと、彼の105分は全部で27のプレーです。
うちパスが14本、空中戦が4回。
「消えていた」は修辞ではなく、記述として正しいと思います。

それでも、ノルウェーは90分間上回っていた

問題はここからです。

「ハーランドが不発だったからノルウェーは負けた」という因果を、数字は支持しません。
なぜなら、ハーランドが消えたまま、ノルウェーは90分間イングランドを上回っていたからです。

もう一度確認します。
90分の xG は 0.52 対 0.27、枠内シュートは4対2、敵陣ボックス内タッチは24対21。
すべてノルウェーが上でした。

その 0.52 のうち、ハーランドの取り分は 0.11 です。
残りの 0.40 あまりを作ったのは、セルロート、アイエル、ヌサ、ウーデゴール、シェルデルップ、アウルスネス。
つまりハーランド以外の全員でした。

先制点も、ハーランドではありません。
36分、シェルデルップ(ベンフィカ)の左足で、アシストはウーデゴール(アーセナル)です。

9番が消えたまま、ノルウェーは90分間、試合の中身で上回っていた。
だから「ハーランドが決めていれば勝てた」ではなく、「ハーランドがいなくても勝てる位置にいたのに、勝ちきれなかった」。
そちらのほうが、数字には近いと思います。

負けた理由を挙げるなら、44分のセルロートと76分のアイエルです。
合わせて 0.28 ぶんの2本が、数センチずつ足りませんでした。

留保もつけておきます

サンプルは1試合です。
ハーランドがもう終わった、という話ではまったくありません。
6日前のブラジル戦では2得点、レーティング 8.84 でした。

言えるのは2つだけだと思います。
この夜、イングランドはハーランドを消すことに成功した。
そして、それでもノルウェーは90分間上回っていた。

枠に飛べば、モデルを裏切る

この試合のマン・オブ・ザ・マッチはベリンガムでした。
レーティング 9.05 は両チーム最高で、111分で2得点。
決勝点のあと、110分に退いています。

彼の2得点を並べると、xG 0.06 に対して xGOT 0.16、xG 0.44 に対して xGOT 0.96。
どちらも枠に飛んだ時点で、撃った位置の見込みを上回っていました。

これはチーム全体の傾向でもあります。


イングランドの枠内シュート8本。xG と xGOT の差が、そのまま「枠に飛んだあとの質」になっている。

イングランドの xG は 1.04、xGOT は 2.64。
およそ2.5倍です。

xG は撃つ前の期待値、xGOT は撃ったあとの期待値だと考えるとわかりやすいと思います。
その比が2.5倍ということは、イングランドのシュートは撃つ前の見込みを大きく上回るコースへ飛んでいた、ということになります。

象徴は110分のスペンスです。
xG 0.11 の位置から放った一本を、xGOT 0.58 の一撃に変えています。
止められはしましたが、枠のどこへ飛ばしたかで言えば、この日の全シュートで2番目の質でした。

ノルウェー側の xGOT は 0.42 で、そのほとんどはシェルデルップの先制点1本ぶんです。
xG 0.02 に対して xGOT 0.43。
彼らもまた、たった1本のモデルを裏切るシュートで先制していました。

3得点を、確率の低い順に並べる

この試合の3得点を、xG の低い順に並べてみます。
36分のシェルデルップが 0.02、前半アディショナルタイムのベリンガムが 0.06、93分のベリンガムが 0.44。

最初の2点は、モデルから見れば入らないはずのシュートでした。
2%と6%の位置から、両チームのエースと10番がそれぞれ1本ずつ沈めています。

3本目だけが「入ってもおかしくない」一本でしたが、それもコーナーが二度弾かれた末に転がってきたボールです。
設計から生まれた決定機ではありません。

つまりこの試合、チームの構造から生まれたまっとうな決定機は、ほとんど得点になっていません。
ノルウェー最大の好機はブロックされ、2番目はポストを叩き、イングランド最大の好機は混戦から生まれました。

「個の力でねじ伏せた」という表現は、たぶん正確です。
ただしそれは、イングランドの選手がうまかった、という意味だけではありません。
この90分、構造が機能していたのはノルウェーのほうで、その構造が最後まで報われなかった、という意味でもあります。

まとめ

この試合を3行にまとめます。

  • 90分が終わった時点の xG は 0.52 対 0.27、枠内シュートは4対2、敵陣ボックス内タッチは24対21で、すべてノルウェーが上だった
  • イングランドはこの試合でプレスを捨てていた。PPDA 21.6 は大会6試合で最も緩く、他5試合の平均 9.3 の2倍以上
  • 延長でペースを変えたのはイングランドだけ。15分あたりの xG は 0.05 から 0.39 になり、延長の枠内シュートは0対6だった

そのうえで勝敗を分けたのは、枠に飛ばしたときの質でした。
イングランドの xGOT はチームの xG の2.5倍。
ノルウェーが逃した 0.28 ぶんの2本は、ブロックとポストに阻まれています。

ハーランドが消えていたのは事実です。
ただ、彼が消えたままノルウェーは90分間上回っていたので、「9番が沈黙したから負けた」という説明は成り立ちません。

準決勝の相手はアルゼンチンです。
イングランドはプレスを捨て、90分間相手に上回られながら、シュートの質だけで勝ち上がりました。
同じやり方が次も通るのかどうか。
PPDA 21.6 のまま準決勝に入るのか、そこが次の90分の見どころだと思います。


データ:FotMob(xG・xGOT・チームスタッツ・シュート・レーティング)、WhoScored(イベントデータ)
対象:FIFAワールドカップ2026 準々決勝 ノルウェー 1-2 イングランド(延長/2026年7月11日)。比較はイングランドの大会6試合とハーランドの出場5試合

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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