ハル・シティ 2-0 マンチェスター・ユナイテッド|21本のシュートが、GKの手に5回しか届かなかった
プレミアリーグ2026-27の開幕節、ハル・シティがマンチェスター・ユナイテッドを2-0で下しました。支配率72%・シュート21本のユナイテッドがGKに届かせたのは5本だけ。ハルの2得点はどちらも止まったボールからでした。90分の構造をイベントデータで分解します。
目次
はじめに
プレミアリーグ2026-27の開幕節、ハル・シティがマンチェスター・ユナイテッドを 2-0 で下しました。
ボールを持っていたのは、負けたほうです。
支配率 72%、パス 654本、シュート 21本。
MKM スタジアムの 24,470人が見たのは、この数字で勝てなかったチームでした。
なぜ勝てなかったのかは、2つの数字に集約できると思います。
21本のシュートのうち、ハルのゴールキーパーの手元まで届いたのは5本だけだったこと。
そしてハルの2得点が、どちらもボールの止まった場面から生まれたこと。
90分をこの2つの数字からほどいていきます。
前半と後半に、別の試合が2つあった
まず結果から置きます。
17分にセミ・アジャイ、38分にノベル・メンディが決めて、ハルが前半のうちに2点を先行しました。
2点目のアシストはリーガン・スレイター。
後半は、どちらのゴールネットも揺れていません。
90分の合計値だけなら、実はユナイテッド優位です。
xG(ゴール期待値)はハル 1.26 に対してユナイテッド 1.81。
シュートは8本対21本、敵陣ボックス内タッチは 11回対41回でした。
xG 差 0.55 は開幕節10試合で9番目の小ささですから、合計値の言い分は「僅差の試合をユナイテッドがやや上回った」になります。
この要約は、前後半で割った瞬間に崩れます。

前後半に分けた基礎スタッツ。ハルの xG は前半 1.16・後半 0.10。後半のハルは枠内シュートもボックス内シュートも0本で、増えたのはクリア(23回→30回)だけでした。
前半の xG は 1.16 対 0.71 で、上回っていたのはハルです。
枠内シュートも4本対2本でハルが多い。
枠へ飛んだシュートの脅威を測る xGOT に至っては、前半だけで 1.72 対 0.29 でした。
ビッグチャンスも前半はハル3・ユナイテッド1で、ハルはそのうち2つを決めています。
ユナイテッドは90分で2度の決定機を作り、2度とも逃しました。
後半は、この風景がきれいに裏返ります。
ハルはシュート3本・枠内0本で、敵陣ボックス内タッチはわずか3回。
ユナイテッドは13本を撃ち、うち9本をボックス内から放ち、コーナーも5本得ました。
それだけ押し込んで、後半の xGOT は 0.31 です。
ハルは後半に1本も枠へ飛ばさないまま、前半の貯金だけで守り切りました。

累積 xG の推移。●がゴール。赤い線は38分までにほぼ積み上がり、以降は青い線だけがゆっくり伸びていきます。
つまりこの試合には、45分ずつ性格の違う試合が2つ入っています。
前半に決めた側と、後半に押し込んだ側。
決めた側の仕組みから順に分解します。
止まったボールが、2点とも運んだ
ハルの xG 1.26 の中身は極端です。
セットプレー由来が 1.19、流れの中からは 0.07。
オープンプレーではほとんど何も作れていないのに、止まったボールの側にすべてが積まれています。

ゴールの出どころ。ハルが敵陣で蹴ったセットプレーは3本だけで、その3本すべてがボックス内へ届き、2点になりました。ユナイテッドは8本蹴って無得点です。
象徴的なのは、先制点までの道筋です。
ハルがこの90分で得たコーナーキックは、たった1本でした。
その1本が17分に来ます。
スレイターの配球をジョン・イーガンが空中で競り勝ち、オリ・マクバーニーのシュートをユナイテッドのゴールキーパー、ラメンスがはじき、こぼれ球をアジャイが押し込みました。
配球からゴールまで5秒。
このアジャイの一撃は xG 0.81 で、両チームを通じてこの試合の最大値です。
見逃せないのは、その唯一のコーナーがどこから来たかです。
ゴール直前の60秒間に、ハルは9本のパスをつないでいました。
支配率28%のチームにとって、これは例外的に長くボールを持てた時間です。
実際、ハルの敵陣ボックス内タッチ11回のうち6回は、16分から30分の15分間に集中しています。
90分でいちばんボールを握れた時間帯の出口に、唯一のコーナーと先制点が待っていました。
2点目も、同じ配球者から
38分の2点目もセットプレーです。
スレイターがフリーキックをボックス中央へ入れ、メンディが頭で合わせました。
配球からゴールまでは2秒、シュートの xG は 0.28 でした。
ここで数えておきたいのは、ハルが敵陣側から蹴ったセットプレーの総数です。
コーナーとフリーキックを合わせて、90分で3本しかありません。
スレイターが2本、コイルが1本で、3本ともボックスの中まで届きました。
そしてスレイターの2本が、そのまま2得点です。
効率という言葉では足りない数字だと思います。
ユナイテッドは同じ武器を8本持っていました。
うち6本はボックス内まで届いています。
それでもセットプレー由来の xG は 0.30 止まりで、ゴールはゼロ。
空中戦の勝率はハルが 58%、クリアは 53回対16回です。
ボックスに落ちてくるボールを跳ね返す仕事は、この夜、完全にハルのものでした。
21本が5本になるまで
では、押し込んでいた側の21本はどこで消えたのか。
帰結で分けると、内訳はほぼ3等分になります。

シュートの帰結別本数。ユナイテッドは21本のうち8本がブロックされ、8本が枠を外れ、ゴールキーパーに届いたのは5本でした。
ブロックが8本、枠外が8本、枠内が5本。
16本は、ゴールキーパーが触るまでもなく消えています。
ハルはこの試合でブロック7回・タックル17回を記録していて、ユナイテッドのシュートのおよそ4割は相手の体に当たって止まった計算です。
撃った場所が悪かったわけではありません。
21本のうち15本はボックスの中からで、ゴールまでの平均距離は 16.0メートル。
ハルの 15.2メートルとほとんど変わりません。

両チームのシュート位置。円の大きさが xG、塗りつぶしがゴール。ハルの2得点はゴール至近の2本で、ユナイテッドの最大値は 0.36 の1本でした。
違ったのは、1本あたりの質です。
ユナイテッドの平均 xG は1本 0.09 で、ハルの 0.16 の半分近くにとどまりました。
最も大きかったのは78分、ブライアン・ムベウモがカウンターから放った 0.36 の一撃です。
これは枠を捉えましたが、止められました。
次点はパトリック・ドルグの 0.33 とマズラウィの 0.23 で、この2本はどちらも枠の外です。
同じような距離から撃って、1本の重みが半分になる。
その差を作った条件の一部が、先ほどのブロック8本に表れています。
前半のドルグは、この構図の縮図でした。
3本を撃って合計 xG 0.47 と、チームで最も多くの期待値を作りながら枠内は0本。
ハーフタイムにマーカス・ラッシュフォードと交代しています。
届いた5本も、GKの正面だった
生き残った5本の中身も、ハルに優しいものでした。

ゴールキーパーから見たゴール枠の正面図。ユナイテッドが枠を捉えた5本の到達点で、円の大きさが xG。5本とも中央から左寄り、高さはクロスバーの3分の2より下に収まっています。
5本の到達点は、横方向では中央から左寄りに固まっています。
右のポスト側はゼロ。
クロスバー際の高さもゼロ。
ゴールキーパーがいちばん困る場所には、1本も飛んでいません。
これを1つの数字にまとめたのが xGOT です。
21本撃った側が枠内で作った脅威は 0.60、8本しか撃っていない側は 1.72。
本数は21対8なのに、ゴールキーパーに与えた仕事の量は逆転していました。
この試合のスコアに最も近い数字は、シュート数ではなくこちらだと思います。
守備線が沈み続けた45分
3本目の構造は、リードしたあとの時間の使い方です。
2-0 になった瞬間から、ハルには守り切る理由しかなくなりました。
その割り切りは、守る位置の数字にそのまま出ています。

守備アクションの平均位置の15分推移。0が自陣ゴール、100が敵陣ゴール。ハルは 28.3 から始まり、最後の15分は 19.6 まで沈みました。
ハルの守備アクションの平均位置は、最初の15分の 28.3 から最後の15分の 19.6 まで下がり続けました。
前半平均が 28.1、後半平均は 23.3。
守備アクションの回数は前半62回から後半77回へ増えています。
守る場所を下げ、守る回数を増やす。
撤退戦の教科書のような推移です。
一方のユナイテッドは前半 35.8・後半 37.7 と、ほとんど動いていません。
ハルの攻撃の数字も、撤退と足並みを揃えます。
敵陣3分の1でのタッチは前半43回から後半27回へ減り、後半のボックス内シュートは0本。
64分には得点者のメンディとアジャイを同時に下げ、ルーカス・ヘリントンとパディ・マクネアを入れました。
2点を取った2人が、25分以上を残してピッチを去っています。
その後もコイル、エリオット・ストラウド、ライアン・ジャイルズと続き、交代枠5枚はすべて守り切りに使われました。
ユナイテッド側から見ると、この45分は「入れるのに、届かない」時間です。
後半の敵陣ボックス内タッチは25回で、ハルの8倍以上。
最後の15分に限れば、ボックス内タッチ12回・シュート8本を集中させています。
それでも枠内で作れた脅威は、先ほど見たとおりごくわずかでした。
入り方にも偏りがあります。
ファイナルサードへの進入パスをレーン別に数えると、中央33本・左17本・右17本。
外へ広げるより、人の密集する正面へ差し込む回数のほうが多かったことになります。
クロスの成功率は 23%(39本中9本)でハルの 33% を下回り、オフサイド3回もすべてユナイテッド側でした。
押し込む量そのものは増え続けていました。
進入パスは前半30本から後半37本へ、敵陣3分の1でのタッチは 134回から182回へ。
ハルの進入は前半13本・後半13本のままです。
入る回数だけが増えて、その先が増えない。
人が集まっている場所へ、そのままボールを運び続けた45分だったと言えます。
「受け身すぎた」と言えるのか
試合後の解説で、ウェイン・ルーニーはユナイテッドをこう評しています。
「プレスにもっとエネルギーが必要だ。彼らは受け身すぎた」。
マイケル・カリック監督は「負けたからといって受け身だったことにはならない。1試合のことだ」と返しました。
支配率 72% のチームが「受け身」と呼ばれる。
一見ねじれたこの言い方を、数字は素直に支持しています。

開幕節10試合・20チームの、敵陣3分の1でのボール奪取回数。ユナイテッドは2回で、20チーム中17番目でした。
ユナイテッドが敵陣3分の1でボールを奪い返した回数は、90分で2回です。
同じ開幕節の20チームを並べると、上位はブライトンの16回、ブレントフォードの12回で、ユナイテッドは17番目。
デュエルの勝ち数も 35対50 でハルに譲り、地上戦の勝率は 40%、空中戦は 42% でした。
ボールを持つ時間は長いのに、失ったボールを奪い返す場面がほとんどない。
ルーニーの言葉は、この試合に関する限り数字と一致します。
ただし、2つの留保を挟むのがフェアだと思います。
1つ目は、奪う相手がそもそも前に出てこなかったことです。
ハルの守備アクションの平均位置は90分通算で 25.4。
ハル自身の敵陣3分の1での奪取も1回だけでした。
相手が自陣深くに引いて跳ね返しに徹すれば、高い位置での奪取機会そのものが構造的に減ります。
2つ目は、押し込む形までは作れていたことです。
後半にボックスへ入り続けた事実は消えません。
足りなかったのはその先、入れたボールを枠内の脅威に変える部分でした。
「エネルギー不足」という診断と「崩しの精度不足」という診断は、別の問題として並んでいます。
カリック監督の「1試合のことだ」という反論も、材料が開幕節の1試合しかない以上は妥当です。
このチームが本当に受け身なのかは、同じ数字を数試合分並べてから決まる話だと思います。
ツォラキス——90分で5回だけ仕事をした男
この試合の最優秀選手は、ハルのゴールキーパー、コンスタンティノス・ツォラキスでした。
レーティングは 8.39 で両チーム最高。
続くのもアジャイ 8.22、メンディ 8.01、イーガン 7.60 とハルの選手が上位4枠を占め、ユナイテッドの最上位はブルーノ・フェルナンデスの 7.45 です。
面白いのは、ツォラキスのセーブが5回しかないことです。
21本を撃たれたゴールキーパーとしては少なすぎる数字ですが、理由はすでに見てきました。
8本は前に立った味方が止め、8本は枠に来なかった。
届いた5本の脅威も合計 0.6点分ほどで、ツォラキスはそれを全部止めた、という試合です。
ただ、セーブの少なさは仕事の少なさではありませんでした。
ツォラキスが90分で記録したイベントは92回。
うちキャッチ・パンチ・ボール確保が20回あります。
コーナー5本を含めてボックスへ入れられ続けた後半、この20回が撤退守備の最後の受け皿でした。
パスは58本で、40メートル以上前へ送るロングボールが37本。
成功は27本ですが、自陣から一刻も早くボールを遠ざけたいチームにとって、成功率は二の次です。
対面のラメンスはレーティング 6.30、セーブ2回、タッチ25回でした。
2失点のうち1点は、自らはじいたボールの跳ね返りから生まれています。
90分の仕事量の差が、そのまま両ゴールキーパーの採点差になりました。
ユナイテッドで数字が伸びたのは、ボールに多く触った選手です。
ブルーノ・フェルナンデスはタッチ102回・成功パス71本で 7.45、ハリー・マグワイアはタッチ89回・成功パス72本で 7.35。
ただし2人合わせて xG は 0.11、決定機創出は3回と2回でした。
チームの成功パス率 88% は、ハルの 70% を大きく上回ります。
ボールに触る回数と、ゴールに近づく回数。
この夜のユナイテッドでは、その2つがきれいに切り離されていました。
まとめ
最後に、この 2-0 を3行に畳みます。
ハルは、90分で3本しか蹴らなかった敵陣セットプレーから2点を取りました。
ユナイテッドは、21本のシュートのうち16本をゴールキーパーの手前で失いました。
そして先行したハルは、守備線を 28.3 から 19.6 まで沈めながら、後半の45分を消しました。
どれも派手さのない構造ですが、3つ重なれば、ボールを持たれ続けた側の 2-0 に足ります。
次節以降にこの試合の続きを探すなら、見るべきはシュート数や支配率ではないと思います。
ユナイテッドなら、敵陣でボールを奪い返す回数と、枠内で作れる脅威の量。
ハルなら、止まったボール以外から xG を作れるかどうか。
この試合で開いた差は、まずその数字に表れるはずです。
データ:FotMob(xG・xGOT・チームスタッツ・シュート・採点)、WhoScored(イベントデータ)
対象:プレミアリーグ2026-27 第1節 ハル・シティ 2-0 マンチェスター・ユナイテッド(2026年8月22日・MKM スタジアム)。比較に使ったのは同じ第1節の10試合・20チーム
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